佐賀市三瀬村広瀬 井上助次郎さん(年齢不詳)

 むかし。

倉谷のふうけ者が、

「伊勢詣りしゅうか」

「ううん、よかろう」

と、二人で出かけて行った。

博多まで行ったときに草履が破れてしまった。

そこで、馬くつを買って履いて行った。

日が暮れてきたので二人の倉谷のふうけ者は宿屋に泊った。

夕食にうどんが出たけれども、その食いみちを知らない。

宿屋の主人は食いみちを知らんことを悟り、

しょう油をつける真似をして見せた。

二人の倉谷のふうけ者は、あんなにして食べるものだと思うて、

しょう油をたくさんかけて食べた。

夜になって床をとった。そして、ちょうちんの使い方がわからない。

「こりゃあ、はがくれ行燈じゃあ」

と、倉谷のふうけの者の一人は言った。

長扉風があった。それが倒れるので、

「自分の方にやれ」

と、もう一人の倉谷のふうけ者は言った。

そして二人の倉谷のふうけ者は長扉風を引っ張り合った。

とうとう夜明けまで引っ張っていた。

朝食に団子が出された。

主人は団子の食いみちを知らないと思ったので、

ボーンと上へあげてはガブッと食い、

ポーンと上へあげてはガブッと食った。

二人の倉谷のふうけ者はその真似をして、

熱い団子をポーンと上げて食ったので、口はやけどしてしまった。

倉谷のふうけ者の一人が、

「もうこりゃあ、ぎゃんあんなれば伊勢詣りはやめよう。もう戻ろう」

と言った。

ところが、二階から降りみちを知らない。

ちょうど二階に猫が上っていた。

その猫がピョンピョンと、跳んで降りた。

その真似をして降りたら頭は打つ、腰は打つ。

とにもかくにも、二人の倉谷のふうけ者は失敗だらけで帰った。

近所の人から、

「早く帰って来たのう!」と言われた。

「『早く帰って来た』とは、博多に泊って首巻きそうめん、

夜中は向かい扉風にからくり行燈、朝は投げ上げ団子に猫下い。もう行き損」

と一言った。

こいがばぁっきや【これでおしまい】。

(出典 佐賀の民話二集 P68)

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