佐賀市大和町四十坊 上野徳次さん(年齢不詳)

 倉谷の馬鹿(ふうけ)婿が、

節供に嫁の里から招待受けた。

嫁の里では、倉谷からわざわざ婿さんが来てくれたので、

嫁のお母さんは、ぼた餅を作って、

「食べてください。食べてください」と、嫁のお母さんは勧められた。

「今日は腹の具合が悪いから食べん」と、婿は言った。

「折角したので、一つで良かけん食べてください」と、

嫁のお母さんは言った。

何度も勧められたが、婿は、ぼた餅を食べなかった。

夜になって婿は、

「今晩は泊まらずに帰らんばらん」と、帰る支度をした。

「おまえ帰るなら、一つも食べとらんから、持たせてやろう」と、

嫁のお母さんは重箱に、ぼた餅を入れて婿に持たせてやった。

婿は、ぼた餅を化物と思いこんでいたので、

帰途にひどい目に合うと捨てようと思って、

竹の先にそれを付けて、ぷらぷら下げて帰っていた。

すると、石跳びがあったので婿は、ぴょんと跳んだ。

そしたら、ぼた餅の包みが上から顔に下ってきた。

婿はびっくりして、それを投げ捨てて走り続けた。

やっとの思いで家に、たどり着いたので、

「あなた、何した?」と、嫁は婿に聞いた。

「おかあさんが、『そや化物よ。食ぺちゃいかん』と、息子に言われた。

俺に食べさせるつもりじゃった。

食べんやったから、それを持たせてやいなった。

恐ろしゅうして、もうおまえの家には行かん」と、婿は嫁に言った。

「馬鹿なこと。そんなことのあるもんかい」と、嫁は言った。

「いや、実際に化物じゃった」と、婿は言った。

婿は、とうとう腹を立てて、嫁の頬を叩いてしまった。

「あんたが叩いたけん、餅のように張れた」と、嫁は言った。

「ああ、それはぼた餅じゃった。

化物を持って来よったのは、ぼた餅じゃった」と、婿は言った。

そんなに馬鹿な婿だったと言うことさ。

(出典 佐賀の民話第一集 P117)

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