佐賀市大和町松梅地区(仲)山本清吾さん

にわか侍

にわか侍

むかしね、

親孝行者の魚売りが塩鰯のようなものを売り廻っていたそうです。

ところが、晩になり一晩、庄屋さんのような金持ちの家に泊まることになって、

二階の奥座敷で少し休んでいたそうです。

その家は金持ちの家柄のようで、床の間に弓とか槍とか薙刀(なぎなた)など飾ってあったそうです。

それで、(その魚売りは)

「ああ、昔ん人は、こいで戦争しよったばいな。

槍ば、一(い)っちょ使(つこ)うてみっか。

使うたこたぁなかばってん」と言って、槍を突いていたら、手元が狂って天井を突いてしまったそうです。

「ありゃあ、しもうた」と思っていたら、上から血がタラタラタラタラ落ちて来たそうです。

そして、「こりゃあ、えりぇえ【大変な】ことしたばい」と思ったけど、

その家の者に、

「どうも、二階に泥棒か何か屈(かご)うどっごたったけん、

私(あたい)が一槍で突っ殺(こり)ぇとっけんが、上ぃあがって見てくんさい」と言ったそうです。

それで、その家の若い者が上にあがってみたところ、

その辺を荒らし回っていた泥棒が血まみれになって倒れていたそうです。

だから、魚売りは気にいられて、そこの娘の聟になって所帯を持ちました。

その後、そこの家の親父さんが、

「家(うち)ん息子は、とても腕が立つ」と言う話を言い回ったので、

その時の殿様が、

「そいないば、大蛇ば退治さしゅう」と言うことになったそうです。

山奥に大蛇がいるということで、

「お前に大蛇退治ば命ずるけんが、必要な物は何でも注文しなさい」と言われました。それで、

「そうですか。そいないば、籾殻(もっかす)を馬の両方に一俵ずつ乗せて、そして、弓一張り」と注文されました。

ところが、弓を射る方法は知らないけど、格好だけくらいは強いふりをしなければと思って、

馬の両方に籾殻を下げて馬術も全く出来ないくせに両方の籾殻の間にどっかりと座って落ちないようにしていたそうです。

ところが、大蛇を退治するところを見たいからと村人も家来なって付いて来たそうです。

それで、あと一山越えたら大蛇が住んでいると言う所まで来た時、その魚売りは、

「お前達ぁ、もう危なかけん、俺(おい)が退治した時ぁ、合図すっけん、そん時こそ来い」

と言って、そこからは一人で行ったそうです。

そして、一山越えて、いよいよ峠に差しかかった時、

上から、とても凄まじい音をさせて風と共に鎌首を持ち上げて大蛇が降りて来ました。

すると、その魚売りは驚いて

「あがん大蛇にゃあ、負くっ」と言って、

谷底にクラクラと転げ落ちて気絶していたそうです。

ところが、ふと気づいた時、

「俺(おりゃ)あ、まぁだ死んじゃおらんたぁ。生きとっけんが、まいっちょ【もう1回】登ってみっか。

偉い凄まじい音じゃったけんど、そん音が、もう一(いっ)ちょでん【少しも】せんけん」

と言って、登っていったところ、大蛇が既に長くなって死んでいたそうです。

そして、馬だけがそこで草など食べていたそうです。

それは、大蛇が馬から落ちた籾殻をガブッと二俵も呑んだので、

腹の中が膨れ、とうとう息が詰まり死んでしまったんです。

それで、魚売りは、

「こりゃあ、しめた」と思って、弓を持って来て刺そうとしたけれど、

なかなか刺さらんので今度は石で首元の所を矢を叩いて、とどめをさしたそうです。

それから、

「服装ないとん整えんば、村人に対して格好の悪か」と思ったようで、服装も整えて、山の上から、

「おおぃ、大蛇ば退治したぞぉ。村ん衆、上がって来い」と言ったそうです。

それで、

「ついに退治しなったばい。こりゃあ良かった。

大蛇がおっぎんと、俺(お)どんも安心して山さいでん来られんじゃったばってん、

あいが退治されたない、良かった、良かった」と言って、ゾロゾロ登って来たそうです。

それで、その魚売りは、

「向こうから大蛇が鎌首を持たげて来たけんが、俺(おい)がこっちから一矢で射とめたたい」

と大きな嘘をつきました。

そして、また馬に跨(また)がって、

「えっさ、えっさ」と言って凱旋将軍のように村人に伴われて帰っていました。

元々、馬に乗ったことがない男だったので、堤の側に来た時、

馬が前膝を折って水を飲もうとしたところ、魚売りも堤に落ちてしまいました。

そして、もがいているうちに、大きな山芋が出てきたらしい。

そして、堤から上がってみたら、魚売りが落ちた時に鯉が驚いて両脇の袖に入っていたそうです。

それで、

「大蛇退治祝いに一杯(いっぴゃあ)飲もうで思うて、堤に魚のおんもんじゃい、跳び込うで捕まえて来た。

ついでに山芋も掘って来たぼう」と言ったようでした。

その魚売りは、やはり、運が付いて回っていたわけですね。

そいでばっきゃ【それでおしまい】

(出典 大和町の民話 P25)

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