佐賀市大和町川上地区(吉富)石津チヨさん
親父さんの、息子に、「法事ばすっけんが、和尚さんば連れてこい。和尚さんな、真っ黒か着とっ」て言うたぎにゃ、息子がズーッと行きよって、烏のおったけん、
「和尚さん、和尚さん、今日は、法事に来ておくんさい」て言うたぎ、
「コカー、コカー」ていうて鳴くもんじゃい、
「子じゃござらん、親でござる」て言うて、何度も言うてもそがん言うもんじゃい、家ぃ帰って、親父さんに、
「『コカー、コカー』て言われたけん、『子じゃござらん、親でござる』て言うたばってんが、やっぱい、『コカー』て言う」て言いんさったて。
そいぎ、親父さんが、「そいないば、そりゃぁ鳥たい。和尚さんな、まぁだ太か。まいっちょ(もう1回)、行たてけぇ」て言われて、また行かしたぎ、今度ぁ牛のおったてったんた、太―か、黒ろーか牛の。
そいぎにゃぁ、「和尚さん、和尚さん、今日は法事じゃっけん、来ておくんさい」て言いんさったぎにゃ、「モー」て言うて。
そいぎ、「もう、じゃござらん。でござる」て言うばってん、やっぱい「モー」て言うて。
そいぎにゃぁ、また帰って、「がんして『モー』て言うけん、『もうじゃござらん、夕方でござる』て言うたばってん、やっぱい『モー』て言う」て言うたぎ、親父さんの、「そいない、そりゃぁ牛たい」て言うて、「そいないば、誰かの者ば、和尚さんば呼びに行かすっけん、おりゃぁ、今から甘酒ば降ろすけんが、下で、尻ばうとれよ。二階から降ろすけん」て言うて、二階に上がって、降ろそうでしたぎ、その息子が瓶の尻はわじ、我が尻ば、こううとったて。
そいぎ、親父さんの手ば離しんさったぎにゃぁ、何もかいも、っちゃえて、甘酒ばいちこびぇえて(零して)しもうたて。
そいぎ、親父さんの、「もう、こりゃぁ、どがんすっかぁ。甘酒もいちこびぇえてしもうたないば」て言いよんさったぎ、和尚さんの来んさったてったんた。
そいけん、その親父さんの、和尚さんに、「風呂の沸いとっけん、風呂どん入ってくんさい」て言いなったて。
そいで、和尚さんな、衣どん、そきぇえ(そこに)ひん脱いで、風呂ぇ入りんしゃったて。
そうして、和尚さんの風呂から上がってきたぎ、衣の無かけん、「こけぇ衣ば脱いだばってん、いっちょでん(ひとつも)無か。どこさい、いたろうか」て、言いんさったて。
そいぎ、親父さんの、その息子に、「お前な、和尚さんの衣ば、知らんか」て聞いたぎ、「衣てん何てん知らんばってん、太か煤のあったけんが、火鉢ぃくべぇて(入れて)、つんゃあた」て、そがん言わしたて。
そればっきゃ【それでおしまい】
(出典 大和町の民話 P23)