佐賀市大和町松梅地区(名尾) 古川ユイさん
大晦日の、三十一日の晩にさい、その家の旦那さんの、女中さんにさい、
「今晩は、火ば消すぎでけん。火の種ば消すぎでけんけん、ちゃんと明日の朝まで火ばもつごとしとかんばいかん」て言いんさったて。
そいけん、「火の消えやしよんみゃぁか」て思うて、あせくって(掻き混ぜて)プゥって吹き、あせくってプゥって吹きしよんさったばってん、とうとうつっ消えたて。
そいぎ、「困ったにゃぁ、こりゃぁ、今のうは、どけいでん(どこにでも)火ばもらいぎゃ行かれんとこりぇ」て思うて、門前に立っとらしたって。
そいぎ、向こうから、松明つけたとの来かけたて。
そいぎ、丁度、門前のとこまで来たもんじゃい、「その火の種ばくれんですかぁ」て言わしたて。
そいぎ、その人は、ばいのう(背負う)とらしたて。
そいて、「火の種ばやっけんが、この棺桶ばあずかってくいろ」て言いんさったて。
そいぎ、その女中さんな、火の種ば欲しゅうしてたまらんもんじゃいさい、しかたなしぃ、預からしたて。
そいぎ、正月の一日になっても、二日になっても取りぃこらっさらんて。三日も四日もなっばってん、取りぃこらっさらんて。
そいけん、「もう、こいだけ預かっとっばってん、開けてなっとんみらじな、どがんしゅうもなかばん。いつまっでん取いぎゃ来らっさんない」ちゅうて、その家の旦那さんが開けんさったて。
そいぎ、その棺桶ん中は金じゃったて、全部。
そいぎ、「そんだけ金のあっないば、お堂どん造らじゃこてぇ」ちゅうて、門のんぃ、お堂ば造んさったて。
そいぎ、その女中さんの、そけぇひょっとしんさったぎ、お観音さんにいちなんさったて。
その女中さんな、人がよかったていうわけじゃろだんた。
そいばっきゃ(それでおしまい)
(出典 大和町の民話 P10)