佐賀市大和町下村 堀 サワさん(大3生)
むかぁし、ある村に、
本当(ほん)に働き者の青年のおんさったて。
そしたらね、嫁さんばね、もらいんさったてったい。
そいぎにゃあとは、よう働くて、その嫁くさんが。
よう働くばってん、御飯ば食べんてっさい、あんまいね。
そいぎ、おかしかねぇて思うて、お聟さんがさい、
仕事に行く真似して、釜や【台所の釜戸の外】から、
こうして見たらさい、やっぱい、蜘蛛やろね、
頭の、こう上がってさい、
飯ば、もう、太(ふー)とか羽釜に炊いて、目杓子で、こうこう入れよったて。
そいぎね、もうそこで、お聟(むこ)さんが、
何かウッ倒しなったてったいね、びっくいして。
そいぎね、コトンて音のしたもんじゃけん、その蜘蛛がね、
「見たろぅ、見たろぅ」て近づいて来てさい、
モッコのような、背中に担(にの)うとっととに乗せて、山さい登って行ったて。
そして、登って、自分な、見つけられたけん、
どがんしゅうでんなかもんじゃい【どうしようもないから】、
その主人ば食(た)びゅうで思うて、ズーッと登いよったぎ、
やぁ中【途中】で、きつかった【疲れた】もんじゃいね、ちょっと降りぇて、
そいて、我が草臥(くたび)れて【疲れて】休んだわけ、そけぇ。
そいぎ、お聟さんがね、その篭(かご)から出てさい、
そいて、自分と同じくらいの石ば乗せてさい、自分な里に下(くだ)んさったて。
逃げん去ったちゅうわけ。
そいばってん、その蜘蛛な、その主人の臭いば知っとっちゅうわけよ。
そうしたら、もう、その人は下(しも)さい逃げたて。
そして、下にお寺のあったてっじゃんもんじゃいね、そのお寺に逃げ込んで、
「こけぇ助けてくんさい、がんして【このようにして】追いかけられよっけん」て頼みなったて。
そいぎ、菖蒲の、こう【とても】、お寺の前ぃあったて、菖蒲のさい。
そいけんサイ、そのお寺の和尚さんの、
「ここん中に、屈(かご)んどきんしゃい【屈んでおきなさい】ちゅうて、臭いのすっけんが、そこに屈ませたて。
そうぎにゃあとは【そうしたら】、あんまい【かなり】、菖蒲の匂いのすっけん、
蜘蛛が来たばってん、その男の匂いが分からんで、その蜘蛛は、その男の家さい帰ったて。元の嫁くさんになってね。
そいて、家の中ば、大抵【かなり】、捜すばってん、おらんやろが、
そいぎにゃあとは、「また、その逃げた日に来(く)っ」ちゅうて帰ったてったい。
五月五日が逃げた日じゃろたいね。
そいけんが、次の年の五月五日になったら、菖蒲ば家の上にさい、ずうっと乗せとったて。
そうしたら、臭いのすっけんね、その臭いで紛(まぎ)らかされて、
蜘蛛は、やっぱい男のどこにおっこっじゃい【おるか】分からやったて。
そいけんが、毎年五月五日になると、
ずーっと家ごと、菖蒲と蓬(よもぎ)と二つ縛(くび)って、家の上に乗すっ。
そいが、由来て。
そいばあっきゃ(それでおしまい)
(出典 新佐賀市の民話 P19)