佐賀市三瀬村今原 光安仙崖せんがいさん(明25生)

 三瀬にイボの坂て言うところがあっですね、

そこに白狐がおってですね、イボの坂のツキヨンバンて言われよった。

そいから、富士町にカンネワラちゅうところがあって、

そこにはオチヨンジョウて言う白狐がおって、二匹は恋仲じゃったらしかです。

それで、両方ば行ったり来たりしよったて。

そいが、すばらしい白狐でね、

狐が白くなるには千年を経たにゃあならんて言うですけど、神通力があるて。

うちの爺さんが、他所に供養に行って夜帰ってよったら、

その狐が出て来て、衣の袖を引っ張るちゅうて、

何事やろうと思うて急いで帰ってきたら、裏の焚き物小屋に火がちいとったて。

そいから、同じ所の人が、外に出かけていて、帰って来る時、その狐が出て来たので、

何事かと思うて急いで帰ってきたら、板敷が一坪ぐらい焼けとったて。

そいけん、火事がこの村はないんですよ。

狐が火事を知らせてくれるんで。

そいから、アオダの狐ちゅうて、

稲の青い時の狐は鳴かない、冬の寒い時には鳴くて言います。

そいけん、アオダの時に狐が鳴きますとね、何事か変事があるちゅうて夜回りをするんですよ。

そいから、イボの坂の近くに金持ちの家があって、

そこの家の婆さんが、産婆ゴゼンボさんじゃったて。

そいぎ、ある時、その産婆さんに、使いの者が晩に迎えに来たて。

「今にも子供が生まれそうですから」ちゅうて。

そいで、「ご案内します」ちゅうのでつんのうで【連れられて】行ったら、

藪をズーっつと突っ切って【横切って】行って、

見たこともない立派な家に連れて行かれたちゅうです。

そこで、無事、子供を産ませたて、腹を揉んでやったいしてね。

そいで、そのお礼にちゅうて、

たいがい、五十銭もやれば上等やったのに 十円札を一枚も くいなったて。

そいけん、婆さんがびっくいしてね、

「こんなにたくさん」て言いよったぎ、

「いやいや、その辺まで送りましょう」ちゅうて、

帰りないよったたぎ、途中で夜が明けてね、

「ここで別れます」ちゅうて、一人で帰ってきよったら、近くの親父さんが顔を洗いよったそうです。

そいで、その婆さんが、

「どこい行ったかぁ」ちゅうけん、

「あぁ、わしぁ、こうして、使いの者が来たけん、産婆させに付いてい来よったら、

立派なうちがあったけんど、が家やろか?」ちゅうたぎ、

「そんなところに、そんな家ぁありゃぁせん」て言われたて。

「だけどん、こうしてお金ももろうてきたて、こりゃぁ、本当ほんぜんじゃろうか、見てくいや」

ちゅうて見せたぎ、

「こりゃぁ、本当のもの、うそと思うない、おいが替えてやろう」ちゅうたけん、

「いいや、そんなら良か」ちゅうて、帰って、神棚にしばらくあげといたそうです。

そいて、別れ際【別れる時】、狐が安産させてくれたお礼にね、

二代までは栄えさせてやろうと言うたそうな。

そうしたら、その後、二代までは栄えたけど、その後は落ちぶれて、今は見る影もなくなったて。

そういう話が残っておりますがね。

そいから、漁師が猟犬を連れて、その藪を通るぎ、白い狐に会うといいますよ。

そうしたら、その狐に逢うたら、どんな犬でも怖がって、ズーッと隅っこに行くちゅうですよ。

(出典 新佐賀市の民話 P10)

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