佐賀市三瀬村唐川 藤井尚弘さん(明39生)

 うーむかーし【大昔】、

本当(ほん)に気の効いとっ兄(あんじゃもん)と

本当にふうけた【間抜けな】弟(しゃてい)が、おんさったて。

そいぎ、

「今日は山に(サイ)行くけんが、お前達(我ガドマ)、

仲良(仲ユ)ーして、留守番ばしとれやー」て言うて、

お父つぁんと母さんな山に行かしたて。

そいぎ、山姥がやって来て、

「今日は二人(フチャァ)だけかい」て聞いたて。

そいぎ、兄は気の効いとってけん、

「二人じゃなか」ちゅうたばってん、弟が、

「いんにゃあ【いいや】、お父(とっ)つぁんてんお母(か)さんてんない、

今日は早よーから山さい行きやった」て言うたて。

そいぎぃと、兄は山姥が来たばいと思うて、

「障子の上から手ば出(じゃ)あて見してくれんかん」て言うたぎ、

山姥が障子の上から手ば、さい出(じゃ)あたて。

そうしたぎ、兄な、山姥の手がガサガサしよったけん、障子ば、

堅(かと)ー閉めたとけー、弟は間の抜けとったもんじゃ、障子ば空けてしもうたて。

そいぎ、山姥じゃったもんじゃい、慌(おろた)えて、二人とも裏の柿の木ぃ登ったて。

そうしたぎぃ、山姥が追っかけて来て、

「お前たちゃあ、柿の木にどがん【どのように】して登ったかい」て聞いたけん、

気の効いた兄な、

「足の裏に油付けて登った」て言うたてぎぃ、

山姥な、スリースリーして滑って登られんて。

そいぎぃ、弟がまた、

「俺(おどまぁ)は、コッツンコッツン段つけて登った」て言うたて。

そうしたぎぃ、山姥が鉈(なた)持って来て、コッツンコッツンして段つけて登って来たて。

そうしたぎぃ、もう行き場がなかごとなって、兄が、

「天道さん、天道さん鉄(かね)ん鎖(くさい)ば、いっちょう降ろしてください」て言うたぎ、

鉄ん鎖がジャランジャランて降りて来たて。

そいぎ、兄な弟といっしょに、鉄ん鎖ぃつかまって登いよったぎぃ、また山姥が、

「お前達ぁ、どがんして登ったかん」て言うたけん、兄が、

「天道さんに、『クサレナワ、いっちょう降てぇてくいござい』て言うた」て言うたけん、

山姥が、「クサレナワ、いっちょう降れぇてくいござい」ちゅうたぎ、本当に腐れ縄が落ちてきたて。

そいぎ、山姥はその腐れ縄につかまって登いよったぎぃ、

腐れ縄じゃもんじゃい途中でツッ切れて、上からチィ落ちたて。

そうしたぎぃ、下に石のあったけん、頭打ち割って、

そこら辺(じゅう)に植えてあった蕎麦に、パーっと血が飛び散らかったて。

そいから、蕎麦ん根は赤(あこ)ーなったて。

そいでばっきゃ(それでおしまい)

(出典 新佐賀市の民話 P7)

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