佐賀市郡富士町下無津呂 合瀬光時さん(年齢不詳)

 倉谷の婿どんが嫁の実家へ行きました。

婿どんは、倉谷では一度も顔を洗ったことがありませんでした。

家の人が手水桶にお湯を出して、

「さあ、どうぞ」と、婿どんに言われました。

婿どんは、お湯をどうしたら良いのかと困ってしまいました。

嫁の実家では、漆(うるし)塗りの桶でお湯を飲むものだろうかと思い、

「これだけ飲むのは、ざっといかんじゃ」と言って、

飲んでしまいました。

しばらくしてから、嫁のお母さんが、

「ご飯をどうぞ」と、婿どんに差し出されました。

「はい。さっきお湯を腹いっぱい戴きました。もう食べられません」と、

婿どんは嫁のお母さんに言ったのです。

「あれ!お湯を?」と、嫁のお母さんは驚きました。

驚くばかりか、婿どんな、馬鹿じゃなかろうか?と思われたのです。

婿どんは家に帰ってから、

「おまえ方は難しい格式のあるのう。

縁側でお湯を漆塗りの桶に入れて飲ませゃったばい。

腹いっぱいで飯の食われるもんかい」と、嫁さんに言いました。

「おまえ、ありゃ顔洗うとばい。そんなことして本当に恥かいたのう。

今度、行た時は顔洗わんばいかんばい」と、嫁さんは婿どんに教えたので、

「うぅん。そんならそんなにしよう」と、婿どんは答えました。

そして、婿どんが嫁の実家にまた行きました。

そこでは、婿どんが、またお湯を飲むと腹痛になるといけないと思って、

今度は桶にお粥を入れていた。

婿どんは嫁さんから桶に入ったとは顔洗うものだと教えられていたので、

お粥で顔をきれいに洗ったのです。

婿どんは飯粒をいっぱい顔に付けたまま自分の家へ帰りました。

だから、「倉谷の者のようにお粥で顔洗われん」と、言うことです。

(出典 佐賀の民話1集 P114)

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