佐賀市富士町下無津呂 合瀬光時さん(明42生)

 むかしむかし。

裏町の勘右衛門さんが、中原【佐賀市富士町】へ遊びに行きました。

勘右衛門さんが唐津へ帰る途中、大曲というところで、

大きな松の木をかたづけている小僧さんを見つけました。

勘右衛門さんは感心しながら、

「あさん【あなた】、それは何すっかい」と、小僧さんに聞いたところ、

「こりゃあ、俺のお母さんの風呂焚き物の中て言いよいござっけん、風呂焚き物にしゅうでぇ」

と答えました。

すると、勘右衛門さんは小僧さんに、

「あさんは、そがん強かない【強いなら】唐津さい一緒に来んかぁ。金儲け口のあっばい」

と誘いました。

小僧さんは、その誘いに乗ったのでした。

そして、二人は唐津へ行く途中、麻那古【佐賀市富士町】のあたりで、

一所懸命に走って来る人に出会いました。

よくその人を見ると、片足跳びして走っていたのです。

勘右衛門は不思議に思いながら、

「なし【なぜ】、お前はしっけんぎょ【片足跳び】して行くかい」と、

その人に聞いたところ、

「両足のつくぎ【地につくと】速すぎて、曲り角は曲られんごと走っけん、

しっけんぎょして行きよったん【行くのだよ】」と答えました。

すると、勘右衛門さんは、

「そがん速かない、俺に連(つ)んのうて【ついて】来んか。唐津に行たて金儲けしゅうで」

と言いました。

そして、その人を連れて、三人で唐津へ行ったのです。

今度は、三人が七山【唐津市七山村】のあたりに来た時、

道端に腰かけている人に出会いました。

その人をよく見ると、片一方の鼻を押さえて、フーと吹きかけていた。

勘右衛門さんは不思議に思い、

「あさんは、何の真似しょっかい。そこで」と、その人に聞いたところ、

「俺は、浜崎【唐津市浜玉町】の渕に風車立てて、

鼻で吹き風を起こして米搗(つ)きしょっ」と答えました。

すると、勘右衛門さんは、

「そがん風ば起こしきっかあ。そんない俺に連(つ)んのうて来んか。

唐津に行たて金儲けしゅうで」と言ったのです。

そして、その人も連れて、四人で唐津へ行っていました。

四人が玉島(東松浦郡玉島町)のあたりに来た時、鉄砲撃ちに出会いました。

その人をよく見ると、片目を閉じて撃っていたのです。

勘右衛門は不思議に思い、

「お前は、何しょっかのう」と、その人に聞いたら、

「鏡山の松の木の一番上に蝉の止まっとろうが。

蝉の目ん玉ば射ろうで思うて、ここから狙(ねら)んどっ」と答えたのです。

すると、勘右衛門さんは、この人もおもしろい男だと思って、

「そがん鉄砲撃ちのうまいない、俺に連(つ)んのうて来んか。

唐津に行たて金儲けしゅうで」と言いました。

そして、その人も連れてへ五人で唐津へ行っていました。

唐津城の手前まで来た時、そこに立札が立っていて、

それには、ここのお姫さんは走り方が速い。

お姫さまとかけっこに勝った者には、

望みどおりの褒美を与えるから、申し出ろ。

と、書いてあったのです。

勘右衛門さんは、麻那古で出会った、かけごろ【かけっこ】の速い人を選手に出した。

玉島から浜崎までかけごろになりました。

まだ、お姫さんが半分も走っていない時に、

かけごろの速い男は向こうに着いてしまっていたのです。

そして、

「まぁーだ、お姫さんな来(き)ござらんけん、よかぁーい」と言って、

松の根元を枕にして、昼寝してしまいました。

ぐうぐうと、いびきをかいて寝てしまったのです。

お姫さんは、男が寝ていたので、

「どうすっかい」と言って、追い越して走って行きました。

勘右衛門は、お姫さんが走って来られるのを近くで見て、

あわてて鉄砲の名人に、いびきをかいて寝ている男をめがけて、

「一発ドーン」と、撃たせました。

撃たれた玉は、寝ている男の耳をかすり傷を負わすぐらいに、

サーッと、飛んで行きました。

それで、男はびっくりして目を覚しました。

そして、風のように飛んで来て、

お姫さんを追い越して、かけごろに勝ちました。

それで、殿さまは、勘右衛門さんに、

「おまえの方が勝ったけん、望みどおり褒美をやろう。何がいるか」と

言われたので、勘右衛門さんは、

「そんない、米ば私が持ちゆっしこ【持てるだけ】下さい」と、

殿さまに言いました。

殿さまは、それくらいならば良いと思い、

「米ば持ちゆっしこぐりゃあない、どいしこでん良か。持ってゆけ。持ってゆけ」と、

勘右衛門さんに言いました。

それで、勘右衛門は、

大曲で出会った力持ちの小僧さんを連れて来て、倉一杯かついで持たせたのです。

すると、殿さまは驚いて、

「そがん持って行かれるなら、あとから戦いは出来(け)んごとなっ。困っじゃあ」と、

勘右衛門さんに言いました。

そして、殿さまは、浜崎のあたりに行ってから、侍たちに米を取り戻すように命じました。

勘右衛門さんの一行が浜崎あたりに来た頃、

後ろを見ると、侍たちが急いで米を取り戻しに来ていたのです。

すると、勘右衛門さんは、七山あたりで出会った風車を回していた男に、

「後ろから米ば取り戻しに来よっ侍どんば、鼻で吹き飛ばさんかい」と言いました。

すると、その男は鼻の片一方を押えてフーと吹きました。

侍たちは、たちまち、みんな飛ばされて、浜崎の海にはいり込んでしまいました。

勘右衛門さんは、米儲けをしてみんなと分け合ったそうです。

そいでばあきゃあ【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話1集 P101)

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