佐賀市多布施 石井不二雄さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいた。

ある日、お婆さんの留守の時に、

お爺さんは腹が減ったので、

戸棚の中に何か食べる物はないかと思って、さがしていた。

その時、戸棚の上に置いてあった、のりの入った鍋をひっくりかえしてしまった。

そして、お爺さんは、のりを頭からかぶってしまった。

お爺さんは着物を、のりだらけにしてしまった。

お爺さんは、大変なことをしてしまったと思った。

お婆さんから叱られると思った。

お爺さんは、のりの付いた着物を乾かすために山に行った。

山のお地蔵さんの日当りのよいところまで行って、

そこに坐り、のりが乾くのを待っていた。

お爺さんは乾しているうちに、いつの間にか眠ってしまった。

そのうちに、だんだん日も暮れた。

夜になると、お地蔵さんのところへ鬼どもがやって来て、

笛を吹いたり、太鼓を叩いたりして、浮立を舞った。

そして、酒を飲んだり歌ったりして宴会をしていた。

お爺さんは、もの騒がしさのため、ふと目を覚した。

お爺さんは恐ろしくなった。

鬼どもは、お爺さんをお地蔵さんと思い込み、いろいろなご馳走を供えた。

お爺さんは恐ろしいのを我慢して、じっと見ていた。

鬼どもはお爺さんを持ちあげ、

テンテンテン、テンテンテンと、おもしろおかしく踊り出した。

お爺さんは余り驚いて、とうとう我慢していた小便をもらしてしまった。

鬼どもは、それを見て、

「お水があがった。お水があがった」と、言ってよろこんだ。

鬼どもはお爺さんを持ちあげたまま踊り続けた。

今度は、お爺さんは糞をたれてしまった。

鬼どもはそれを見て、

「御供(ごっくう)さんがあがった。御供さんがあがった」

と言って、またよろこんだ。

お爺さんを持ちあげ、踊って喜んでいるうちに明け方になった。

一番鶏が、

「コケッコッコー、コケコッコー、コケコッコー」と鳴いた。

すると、鬼どもは、びっくりして、

「やぁ、もう夜が明けるぞ。朝になっぞ」と慌てて立ち去った。

鬼どもは、宝物やご馳走を置いたまま去ってしまった。

お爺さんは鬼の置き忘れた宝物やご馳走を家に持ち帰った。

お婆さんは、それを見て大変喜んだと。

そのことを知った隣りの欲張りのお婆さんは、

うちの爺さんもお地蔵さんのところへ行かせようと思って、

「爺さん、爺さん。あんたも行かんね」と言って、

お爺さんの頭にのりをかけた。
そして、お爺さんは、欲張りのお婆さんから教えられたとおり、

山のお地蔵さんのところへ行った。

そこでお爺さんは鬼を待っていた。

鬼どもは前の晩と同じように、お地蔵さんのところまでやって来た。

そして、笛を吹いたり、太鼓を叩いたりして浮立を舞った。

酒を飲んだり歌ったりして、宴会をした。

お爺さんは恐ろしくなった。

鬼どもは、お爺さんの前に、ご馳走を供えた。

そして、鬼どもはお爺さんを持ちあげ、

テンテンテン、テンテンテンと、おもしろおかしく踊り出した。

お爺さんは、鬼どもの踊りがおかしかったので、

ハァハァハァと笑った。

鬼どもはお地蔵さんではなく、人間だということに気づいた。

鬼どもは大変腹を立てて、お爺さんを殺して食ってしまったと。

こいばぁっきゃ【これでおしまい】。

(出典 佐賀の民話1集 P110)

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