佐賀市多布施 石井不二雄さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに馬鹿(ふうけ)者が住んでいた。

ある日、おかあさんが亡くなり、

ふうけ者はお父さんと二人で暮していた。

ちょうど、お母さんの供養のことでふうけ者に、

「和尚さんを迎えに行って来んか。

この山の先の方に和尚さんがおられるから。

今日はお母さんの供養だから、お出んさい。

と、言うて来(き)ござい」と、お父さんは言った。

すると、

「和尚さんて、どんなにしとらすかい」と、ふうけ者がたずねると、

「とにかく、白襟をして黒い着物を着ているのが

和尚さんだから、すぐにわかる」と、お父さんは言った。

ふうけ者は、

「あぁーい」と返事をして、和尚さんを迎えに出かけて行った。

ふうけ者は野原に出たところに、黒いのがいるのを見つけた。

あぁ、あれが和尚さんだなぁ、と思いながら、

ふうけ者はだんだん近づいて行った。

そして、大声をはりあげて、

「和尚さん、和尚さん!こん晩、お経誦みに来ておくんさい」

と言ったが、カラスはふうけ者の方を見て、

「コカ【子か】、コカ、コカ」と、鳴いたものだから、

「いーや、子じゃござれん。親でござる」と、ふうけ者は言った。

またカラスは、

「コカ、コカ、コカ」と、鳴いたので、

ふうけ者は腹を立てて家へ着くやいなや、お父さんに、

和尚さんに、

「今晩来てくんさい」と言うたら、

「コカ、コカ、コカ」と言ったと、ふうけ者が言った。

「そりゃあおまえ、カラスたい。カラスは細かと。

太か黒かとを着とっとが和尚さん」と、

おとうさんは再びふうけ者に教えた。

そこで、ふうけ者は、

「そがん太かとかんたぁ」と言って、

また和尚さんに頼みに山へ出かけて言った。

今度は向こうの方に黒いのが小屋にいた。

ふうけ者は、今度は和尚さんに違いないと思って、

「和尚さん、和尚さん。和尚さん、

今晩うちのお母さんの供養するから来てください」

と頼んだ。

「モーウ」といった。

「もうじゃない」と、ふうけ者が言った。

するとまた、

「モーウ」と言った。

ふうけ者は、とうとう腹を立てて、再び家へ帰ってしまった。

そして、お父さんに、

「ただいま。和尚さんに今晩来てくださいと頼んだが、

『モーウ、モーウ』言って、何ベん言うても、『モーウ、モーウ』言われた」

と、ふうけ者は言った。

「そりゃあ、牛やったい」と、お父さんは言われた。

そして、

「どうにもこうにも、お前はならんのう」

と、お父さんは嘆かれた。

そいばあっきゃたい【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話1集 P103)

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