佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)

 むかし、むかし。

あるところに子供を欲しがっている夫婦が住んでいました。

夫婦は子供が生まれるようにと、お観音さまに願かけていたのです。

ある日、かわいい女の子が生まれました。

それからと言うものは、親子三人ぐらしの幸福な日々が続きました。

夫婦はお観音さまにお詣りすることは決して忘れませんでした。

娘が年頃になった頃、

お父さんと一緒にお観音さまに詣りに行く途中、

蛇が蛙を吞み込もうとしていたのです。

お父さんはお観音さまに詣る日だから、

生き物を殺してはいけないと思ったので、

「助けてやってくれ」と、蛇に頼みました。

しかし、蛇は口を開けようとはしなかったので、

「娘ば嫁にやるけんが助けてやってくれ」と、

お父さんは蛇に言ったのです。

すると、蛇は蛙を放しました。

蛙はうれしそうに逃げて行き、蛇はその場から動きませんでした。

お父さんが蛇に、

「三日後に来てくいろ」と言いました。

そして、蛇はそのことを聞いて去って行きました。

お父さんと娘は、お観音さまに詣る途中、

今度は山から少年が蟹を籠いっぱい担いで下ってきたのに出会ったのです。

お父さんは、その少年を呼び止めて、

「その蟹はどうするか」とたずねました。

少年は、

「蟹は街へ売りに行くところ」だと答えました。

お父さんは、

「それじゃ、自分にその蟹を売ってくれんか」と、少年に頼みました。

「はい。売って良か」と、少年は言ったので、

お父さんは、少年に蟹を何のために、

持って行っているのか訳を聞きました。

「おかあさんの病気だが、薬は買われん。お米も買われん。

だから、山蟹を取って街さい売りに行きよっ」と少年は答えたのです。

それで、お父さんは少年から籠ぐるみ買いました。

少年は二文半の代金と言ったけれど、お父さんは五文も支払いました。

そして、その代金を少年に渡す時に、

「早くお母さんに薬を買うて持って行け。

お米も買うて、早くお粥どんたいて食べさせなさい」と、

お父さんは言ったのです。

「ありがとう」と少年はよろこんで立ち去って行きました。

お父さんと娘は、少年が蟹を取った谷川まで、

その籠を持って行って、蟹を逃がしてやりました。

それから、お父さんと娘は観音さまにお詣りをして、家に帰りました。

そして、お母さんに、

「お観音さまの日に、蟹は助けて来たばってん…

蛇が蛙を呑もうとしていたから、助けようとするばってん、

なかなか聞いてくれなかったから、

『娘ば嫁にやるけんが助けてくいろ』と約束した。

そがん言わんぎ良かったばってんが…」と、

お父さんは心配そうに言いました。

「そりゃあ、どがんすっか。

約束したない、どがんしゅうでんなか。

三日後にやって来るなら」とお母さんも心配そうに言いました。

それで、蛇が家の中に入って来ないように

大工に頼んで家の修理もしました。

三日目には、白い箱を座敷の真中に置き、その中に娘を隠しました。

親類の者も家に来てもらって、戸口は夕方から閉めて鍵をかけ、

観音さまにお祈りを続けました。

丑三(うしみ)つどきになると、

「ごめんください。ごめんください。三日前に約束した蛇太郎です。

約束通り娘を貰いに来たから、開けてください」と、

蛇が戸口を叩いたのです。

お父さんとお母さんは、

無我夢中になって観音さまに拝んでいました。

蛇は戸口をバタン、バタン、ガタガタと

今にも破れんばかりに叩き続けました。

しかし、いつのまにか叩く音も止んで、

夜明け頃になって、お父さんは蛇も疲れたのだろうかと思って、

そうっと戸口を、おそるおそる開けてみました。

すると、たくさんの蟹が、

蛇の頭から尻尾まで、はさんで咬み殺していたのです。

助けられた蟹が恩返しをしたのでした。

そいばぁっきゃ【それでおしまい】。

 

(出典 佐賀の民話1集 P95)

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