佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 むかーし、あるところに、

嫁さんをもらった男がおって、余(あんま)し、

嫁さんが綺麗かもんじゃいさい、嫁さんばっかい眺めて働かんて。

そいでね、嫁さんの顔ばっかい眺めてね、

藁(わら)打つぎ手打つ、縄は途中で太(ふと)う小(こー)もう【小さく】なっしで、

仕事のさばけんごとならしたて。

そいて、山の畑打ちぃ行かすぎぃ、

嫁さんば連れて行こうですんもんじゃい、

「私(あたしゃ)嫌よ。

機織りせんばらんとけぇ、山さい、ごっとい【いつも】

連(つ)んのうで【連れられて】行くない、反物一反でん織れんよう」ちゅうて

言うもんじゃい、

そいで、その嫁さんと同じ絵ば書いてもらい、

そいば、山さい持って行ってね、木の枝じゃい【などに】下げて、

そして、畑ば打ちよらしたって。

そしたら、風の吹いて、その紙が飛んで行ったて、その絵姿が。

そしたら、殿さんのそいば、見てね、

「あぁ、こりゃあ美人じゃ、山里にこがん綺麗か美人のおっとじゃろうかぁ」ちゅうて、

探しに行かしたぎにゃあとは、その嫁さんやったて言うわけね。

そいぎ、その嫁さんば、

「お城に連れて行く」ちゅうて、

お殿さんの無理やり連れて行こうでしんさったて【行こうとされたと】。

そいぎぃ、その嫁さんが、

「私も夫のある身けんが、一日、二日は待って下さい」ちゅうたて。

そいけん、

「そんなら、良かろう」ちゅうて、

そして、

「逃げて行かんごと」ちゅうて、

見張いを付けて帰んさったわけですね。

そいて、帰んさった後、

「あたし達の運命て言うもんは、どうなるかは、わからんばってん、

とにかく、あなたが桃売りに来(き)んさい。

私も会いたかけん、声なっとん【声でも】聞きたかけんね、

お城の人にも

『桃売りの声ば聞かせてくんさい』て言うとくけんが」ちゅうてね、

お城さい上がんさったて。

そいて、お城に連れられて行ったぎぃ、お殿様に、

そがんして、連れて来られとんもんじゃい、黙(だまー)って笑いもせんて。

そいぎぃ、お殿さんは、どがんなっとんして【どうにかして】、

その嫁さんば喜ばしゅうで思うて、何でんしてみんさっばってん【色々試されるけど】、

いっちょでん【全然】笑わんて。

そいぎにゃあと、ある時、桃売りさんがお城に来たて。

そうして、

「桃や桃、桃はいらんかなぁ」ちゅうてから来(く)んもんじゃい、

そいば聞いたぎぃ、ニコーっと笑わしたて。

そいぎぃ、お殿さんの、

「やぁ、笑ろうた」ちゅうて、そして、

「桃屋ば、こっちぃ呼んで来い」ちゅうて、お城の中に入れたて。

そいて、もっと、その嫁さんが笑ろうた顔ば見たかもんじゃぃ、殿さんが、

「ちょっと、桃屋、その着物(きもん)ば脱いでね、

俺(おい)に貸してくれ」ちゅうてね、そいて、

「お前も、ちょっとその裸にはなられんやろうから、俺の着物ば着とけぇ」ちゅうて、

着物ば替えなったて。

そいて、

「桃や桃、桃はいらんかなぁ」ちゅうたぎぃ、

その嫁さんなもう、こうこうやって笑うもんじゃい、

ニコニコすんもんじゃい【ニコニコするから】、調子にのって、

「ちょっと門の外まで行って来(く)っかぁ」ちゅうて、

「桃や桃、桃はいらんかなぁ」ちゅうて、城の周りば回って帰ってきたぎぃ、

門の閉まってしもうて、家来どもから、とうとう追い出されてしまったて。

そいで、そのお殿さまになった桃売りと嫁さんな、

ずーっとお城の中で幸せに暮らしなったて。

そいぎぃ、ばっきゃあ【それで、おしまい】。

(出典 新佐賀市の民話 P27)

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