佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 むかーし、むかし、ある所に、

かわいい娘さんがおって、

「うちの子も、いよいよ大きゅうなったねぇ」ち言(ゆ)うて、

お父さんとお母(か)さんと話よらしたて。

そいて、

「本当(ほん)なこてぇ、そろそろ、聟(むこ)さんをもらわんと」て、

お父さんが言うたぎぃ、お母さんの、

「何じゃ知らんばってん、近頃、あい【娘さん】の部屋から、

こう話し声の聞こえよっごたっけん、

誰(だい)じゃい通うて来っとのおっとじゃなかろうかねぇ。

そいばってんが【それだけど】、いつ戸ば開けて来(き)よらすこっじゃい、

私(あたし)も大抵、気ば付けとっばってん、分からんばんたぁ」て、

お父さんに言いなったて。

そいぎぃ、お父さんの、

「そうかい、そりゃあ、いっちょ【ひとつ】、娘に聞いてみらじなこてぇ」て言うて、

そいで、娘ば呼んで、

「誰が通うて、来よらすとこう【来てるんだ】。

お前も良か歳になったけんが、そがんこともあろうて思うとったばってんが、

どこの人こっちゃい分からんないばねぇ」ちゅうてから、

お父さんが言うわけねぇ。

そいぎ、娘も、

「私も、いつ来んさっこっじゃい分からん。

私がおっぎぃ【いたら】、ちゃんと、部屋ん中に来とんさんもん。

綺麗か人ばってん」て、言うわけですね。

そういぎにゃあと【そうしたところ】、お母さんが、

「そんない、今日なっぎにゃあと、カセ【糸巻き】の先ん所ば針に通してねぇ、

着物(きもん)の裾に縫い付けときんしゃい。

その人には分からんごと、せんばばん【しないとだめよ】」ち言いなったて。

そいぎぃ、その娘さんの、お母さんに言われたごと、

ソーッと、その人には分からんごとして、しとんさったぎ、

そうしたら、朝、夜が明けてみたぎぃ、

カセから糸の、ズーッと外に続いていっとったて。

そいて、糸の大抵、減っとったけん、

「大抵、遠かごたっなんた【遠いようだ】」て、

お父さんとお母さんが言うて、その糸ばズーっと伝わって、

お父さんが行たてみたて。

そうしたぎ、家のなしぃ【家じゃなく】、沼のごたっとこまで、行たとったて。

「おかしかねぇ、ここんたりゃあ【ここら付近は】、

家な無かとこりぇ、どこの人じゃったろうかぁ」て言うて、

お父さんな、あっち見こっち見しようんさったて。

そしたら、何か、こう人の話しよっ声のすっもんじゃい、

耳ば、こうして欹(そばだ)てとんさったぎぃ、沼の中から、

「あの娘に自分の子ば産み付けて来たけんが、子供の出来とっごたっ」ち

言う声のすって。

そいぎ、

「あぁ、そりゃぁ良かった、良かった。

そいばってんが、三月三日の桃の節句に、

その娘が白酒どん飲まんぎ良かばってんねぇ。

そいと、五月五日の節句の菖蒲湯、蓬(ふつ)てん何てんば入れたとに、

浸(つ)かっぎぃ困っのぅ。

菊の節句(九月九日)の時にゃあ、産まりゅうけんが【産まれるだろうから】、

白酒と菖蒲湯と二つせんぎぃ、子供の産まるっばんてん」ち言う声の聞こゆって。

そいて、それがね、どうも普通の人の話し声じゃ、なかごたって。

そいぎにゃあと、帰って来てから、

「また、今度、男の来っ時、様子ば見よろう」ち言うて、

見とんさったぎ、本当なごて、何時(いつ)来(こ)らしたじゃい分からんごとして来(き)たて。

そいけん、

「やっぱい、ありゃあ、本当な男の人んごとしとっばってん、

やっぱり、蛇か何かが化けて来たとじゃろう。

とにかく、三月三日の来(く)っぎ、桃酒ば飲ませて、

そいから、五月五日には菖蒲湯に入らせんばならん」ち言うて、

そがんしたぎ、何も触り【祟り】がなかったて。

そいけん、女の子には、三月三日に白酒ば飲ませて、

五月五日には菖蒲湯ば、浸わせんばでけんて、そがん言いよったよ。

そいぎぃ、ばぁっきゃ【それで、おしまい】。

(出典 新佐賀市の民話 P26)

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