佐賀市成章町 宮地ニワさん(明39生)

 むかーし、あるところに、

猿どんと蟹どんが、おんさったて。

そいぎんと、ある時、蟹どんが、

「今日は、餅搗(つ)いて食びゅうやっかん【食べよう】」

ちゅうて、餅米ば拾うて来(き)たて。

そいぎんと、餅米は拾うて来たばってん、

今度(こんだぁ)、小豆(あずき)のなかて。

そいぎんと、

「俺が小豆ば拾うてくっけんが、お前は臼ば借ってきやい」

ちゅうて、蟹どんが猿どんに言うたて。

そいぎ、猿どんが臼ば借ってきてさい、

蟹どんが、小豆ば何処からじゃい拾うて来て、

そいて、二人で餡ころ餅ば作いなったて。

そいて、餡ころ餅ば作ってしもうたから、蟹どんが、

「もう食びゅう【食べよう】」ちゅうばってん、猿どんが、

「食ぶっとは後からでん良かやっかい【食べるのは後でも良いよ】」ちゅうて、

「臼は俺が借って来たけん、今度ぁ、お前な返ぇて来やい」ちゅうて、

蟹どんに返しぎゃあやった【返しに行かせた】てじゃんね。

そして、その間に、猿どんが、我が食べるしこ【だけ】食べて、

柿の木の上に登ってしもうとったて。

そいぎ、蟹どんが下から、

「俺にも、イッチョクーレンカン、

お前ばっかい食べんちゃあ、俺もイッチョクーレンカン」ちゅうて、

下から叫(おら)ぶ)て。

そいばってんが、猿どんな、くれじぃ【やらないで】、

「美味かねぇ、カッチョンチョン、美味かねぇ、カッチョンチョン」ちゅうて、

一人で食べよったてさい。

そがんして、食べよったぎ、上から、烏が猿どんに糞垂(た)いかけたて。

そいぎ、

「あら」ち、言わした時、

餅が下に落(う)っちゃえた【落ちた】ちゅうわけ。

そいぎ、蟹どんが、餅ば慌(うろたえ)て取って、

穴の中(なきゃあ)入ぃ込んだてさい。

そいぎ、今度ぁ、猿どんが、穴の上から、

「お前ばっかい食べんちゃ【お前だけ食べないで】、

俺もイッチョクーレンカン」ち言うたて。

そいぎ、蟹どんが、

「さっきは、お前だけ食べたやっかん。

そいけん、俺も一人で食ぶっくさん【食べてやる】」て言いよったぎ、

猿どんの、

「そいない【それなら】、俺が上から、糞垂いかくっばん【垂れかけるぞ】」ちゅうて、

蟹の穴ん中ぁ、尻ば付けんさったて。

そいぎんと、猿どんが上がってきて、猿どんの尻ば挟みんさったて。

そいけん、猿の尻は真っ赤になったて。

そいばっきゃ(それでおしまい)

(出典 新佐賀市の民話 P28)

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