佐賀市川副町下小路 本吉 ヨシさん(明25生)

 本当(ほん)に、お嫁さんが、ご信心してばんたぁ、

お寺詣(みゃあ)いばっかいしないよったて。

晩になっぎなたぁ、しんさんもんじゃいけん、姑お母(か)さんがもう、

とても邪見かけてなたぁ、昔ぁ木綿ば引きよったでしょうがぁ、そいけんがぁ、木綿ば、

「今晩、こがしこ【これだけ】引いとけ」ち言うて、詣られんごとしなったて。

そいばってん(それだけど)、詣る前にはちゃあんと引いてしもうとんもんじゃっけんが、

明日の晩な、増やしてなた、しなっばってん、また引いてしもうとんもんじゃい、

その明日の晩は、また増やして、しないよったて。

そいばってん、やっぱいお寺詣りの時間には、必ず、さばけてなたぁ、詣りござっもんじゃけんが、

今度(こんだぁ)、鬼面の怖(えす)かごたっとば被ってくさんたぁ、

そのお寺から帰ぇがけのところに、ひふきやぼ【雑木林】のあっところになたぁ、

鬼面を被ってくさんたぁ、屈(かご)うでおったてなたぁ。

そいぎ、ちょうどお嫁さんが、

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」ちゅうて、お念仏ば唱えて帰って来(き)ござっところになたぁ、

「嫁御、カモウデテェ」ちゅうてなたぁ、その恐ろしか面ば被って出てござったんたぁ。

そいぎ、そのお嫁さんな、

「お慈悲の身なれば、のみにもゆるまい、うえにもゆるまい」ちゅうてなたぁ、

後を振り向きもせず、家(うち)さぃ帰ぇござった訳たんたぁ。

そいぎ、この面ば除(の)きゅうですっばってん【除こうとするけれど】、

そいぎにゃあ【そうしたら】、嫁さんが、三井寺にお詣りして、

「こう言う風で取れないけんがぁ、どうぞ取っておくんなさい」ちゅうたぎ、取れたそうです。

そいばってん【それでも】、取ったところが、その面に肉の付ぃとったてねぇ。

そいけん、その面は「肉付きの面」ちゅうてなたぁ、京都の三井寺に安置してあるそうです。

(出典 新佐賀市の民話 P45)

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