提供：佐賀市観光振興課
佐賀市東与賀町今町 吉田 ヒロさん（明37生）
三月三日の桃酒の由来（ゆわれ）はなんた、
お婆ちゃんから聞いた話はなた、
むかし、お寺の娘さんが、誰か分からんで、お腹の大きゅうなったて。
そいぎんと、村中の青年ば寄せて調べたけれど、
「俺（おりぁ）は知らん、俺は知らん」て言うて、
どがん【どんなに】調べても、わからんて。
そいけん、毎晩、来（き）よらしたちゅうもんじゃい、村中の若者（わっかもん）が、
「お寺の周囲ば、ぐるーって囲うで、しとこうじゃっか」て言うて、
お寺のお御堂の周りば、ぐるーっと番しとったて。
そがんしても、十日しても、十五日しても見つからんて。
そいぎ、「困ったもん、ぎゃん【こんなに】しても見つからんない、
どがん【どのように】なっちゃろか」ちゅうて言いよったところが、
終（しま）いの晩に、棚の隙間から蛇が入って来よったて。
そいぎ、どこさん行くじゃろうかい、て思うて、
じーっと見よったところが、娘さんの寝とっとこさい入って行ったて。
そいぎ、村の若者がなた、
「こりゃあ、俺達の手じゃあ、抑えきらん、狩人の良かとば呼んで来（こ）んば」て言うて、
狩人に頼んで、狩人が番しとったて。
そいぎ、やっぱい、晩になったぎ、
棚の隙間から蛇が入ろうてしよっところば、鉄砲で打ったぎなた、ずーっと逃げて行たて。
そいけん、ずーっと、その血ば辿（たど）って行たぎ、穴の開いたところまで続いていたとったて。
そいたら、穴の中から蛇の声のすって。
「何十年て、我が子の種ば人間に降ろしたか、て思うとったぎ、ようよう降ろしたけん、
良かばってんが、すぐ三月三日に節句の来（く）っ。
三月の節句の桃酒じゃあが飲んでくれんぎんたぁ、立派に子供は育つ。
飲んでくれんぎ良かばってん【良いけど】」ちゅうて言いよっとの聞こえたて。
そいぎ、帰って、和尚さんにそがん言うて話したぎ、
「そいないば」ちゅうて、三月三日に桃酒ば飲ませて、
飲ませてから、盥（たらい）の中に水入れて、そいて、水の中に蛙（ビキ）入れて、
「ここん上ぃ跨（また）がれ」ちゅうて、蛇の子を降ろさせたて。
そいけん、そがんこともあっけん、
三月三日の節句には女の子に桃酒を飲ませんばいかん、
て婆さんか言いよったよ。
そいから、障子の、さん【角】は隙間のなかごと【ないように】しとかんとでけんばい、
て言いないよった。
そいばあっきゃ（それでおしまい）
。
（出典 新佐賀市の民話 P47）
