佐賀市久保田町大立野北 船津万吉さん(明39生)

 正月にあげた餅ば、いつ食うかち言うぎ、

六月一日に食わんばいかん【食べないといけない】て言いよった。

なしか【どうしてか】ちゅうぎなんた、

昔、ある家の亭主が居(お)らん留守(るし)ぃ【居ない留守に】、

嫁(かみ)さんが産気づいたて。

そいぎ、亭主な、外に荷車ば引いて歩(さる)いて商売しよったけん、

神さん祀っとこの堂に泊まらしたぎ、夜眠っとっぎ、何か、

「グトグトグトグト」声のすって。

そいけん、よーして【じっとして】聞きよんさったぎ、

「今日生まれた子は、誰(だ)が【誰の】コブか」て誰か言いよっとに、

「俺(おい)のコブ、俺のコブ、」て河童(かわそう)が言いよったて。

そいけん、

「かわいそうに、今日生まれた子供が、河童から盗らるっとじゃなぁ」て思うて、

翌朝、帰って来たぎ、我が方んとに【自分の嫁に】、子が産まれとったちゅう。

そいけん、

「こりゃあ、家(うち)んと【自分の子】たぁ」ちゅうて、

そいぎ、

「取いにくっとは何月何日ちゅうたかなぁ、確か六月一日ち言いよった」ちゅうて、

そん時ぃ、畳に萱(かや)引いて、その中(なき)ぁ子供ば入れて、

そうして、正月餅のあったもんじゃっけん、餅どん焼ぁて、そうして、河童に食わせたて。

そがんしよったぎぃ、時間が過ぎて、河童が取らじぃ帰って行ったて。

そいで、子供には、

「嫌」て言うたろうが、どがんこってん【どんなにしても】食わせよったよ。

そいけん、昔ぁ、六月一日(ちいたち)に餅食わんばらんけん、

正月餅は、のけとけ【とっておけ】て言いよったよ。

(出典 新佐賀市の民話)

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