佐賀市富士町中原 吉富ツル子さん(昭6生)

 むかーし、あるところに、

本当(ほん)に良かお爺さんとお婆さんとおらしたてったい。

ある時、お爺さんの、

「今日は、良か日和(ひよい)じゃっけん、ちょっと、山芋いっちょう掘いぎゃあ行たて来(く)っかにゃあ」て、畑に行かしたて。

そうしたぎぃ【そうしたところ】、畑の隅(すみ)ん方に、

小(こ)-まか穴の掘(ほ)げとった【あいていた】てったいてぇ。

そうぎぃ、お爺さんの、

「この穴、何(ない)かーい、石ば、いっちょ【ひとつ】入れてむっかにゃー」て言うて、ポンと入れらしたぎぃ、

「チリンカランコロン」て鳴ったて。

そいけん、

「あら、今んたぁ、おかしか音ない。まいっちょ【もう一回】入れてむっかぁ」ちゅうて、またポンて入れなったぎぃ、また、

「チリンカランコロン」て音のすって。

そいけん、

「おかしかにゃあ、今度(こんだ)ぁ、いっちょう入(ひゃあ)ってみっかにゃぁ」ちゅうて、爺さんのズーッと入って行かしたて。

そうしたら、鼠さん達の、いっぴょう【たくさん】、ポッタンポッタンポッタンて餅搗(ち)いて、

「あら、お爺さんが、おいでんさいた【来られた】。

早(は)よう上がってくんさい、早うあがってくんさい。お餅ば食べんさい、お酒ば飲みんさい」ちゅうて、

もうこう【とても】ほとめきんさったて【もてなされた】。

そいぎ、お爺さんの、餅食うて、酒飲んで、飯も食うて、

「あーぁ」ち言わしたぎぃ、一番太か鼠さんの、

「爺さん、爺さん」て言うて。

そいけん、

「何かーん」ちゅうたぎ、

「あのー、猫ん真似(まにゃ)あしてくいやんなよー」ちゅうて、その太か鼠の言わすて。

そいけん、

「冗談(ぞうだん)のごと【とんでもない】、俺(おい)が猫の真似ばしわゆんもんかん」ちゅうて、

一時(いっとき)ばかいしたら、

「ほら、お爺さん、こいが何て言う宝物」ちゅうてから、鼠が宝物ば、いっぴゃあ見せらしたて。

そいぎぃ、お爺さんな、

「ほぅー」ちゅうて、そして、

「俺ぁ、ちょっと小便(しょんべん)しゅうごたっとが、小便がまは何処(どこ)かーん」ちゅうたぎぃ、鼠が、

「あっちぃ、あっちぃ」て言うもんじゃい、あっちぃ行たて、ちょっと屈(かご)んで、

「ニッポン、ニャーオン」て、言わしたぎぃ、鼠どんがゴトゴトゴトて隠れてしもうたて。

そいけん、爺さんが宝物ば、いっぴゃあ持って、

ヨリンヨリンすっごと持って帰って来(こ)らしたて。

そいぎぃ、隣(とない)のお爺さんと婆さんな、欲張りも欲張り、こう(とても)欲張りやったて。

そいぎ、婆さんが、こーして、こやーんして【このようにして】、

良かお爺さんの家の中ば見てみらしたぎぃ、

お爺さんの宝物ば出しよらすもんじゃい、こりゃあ、いかん。

家(うち)ん爺さんも、行かせにゃあいかん、て思うて、

「爺さん、爺さん、隣の爺さんな、山芋堀いや行たて宝物ば、いっぴゃあ背負(かる)うてきとらすばい。

爺さんも行たてこんねぇ」ちゅうて言わしたけん、

隣の爺さんも、

「そんない、俺も行こうかのー」ちゅうて畑に行たて。

そいて、畑の隅さい行たら、穴のほげとったけん、

「『それぃ石ば入れろ』ってじゃったけん」ちゅうて、石を入れらしたぎぃ、チリンカランコンて音のすって。

そいから、また入れらしたぎぃ、二度目もチリンカランコンて音のすっ。

そいけん、

「この穴ばいにゃあ」ちゅうて、自分も入って行かしたぎぃ、鼠どんのおったて。

そうしたら、鼠どんの、

「この前の爺さんな、もう何(ない)でんかいでん持っていたてしもうたけん」ちゅうて、

その爺さんば、臼ん中(なきゃ)あ入れち、もう、ポッタンポッタンポッタン、爺さんば搗かしたてったい。

そいぎぃ、

「俺じゃなかばん、隣の爺さんばん」ちゅうて、幾ら言うてちゃあ、鼠どんが搗くて。

そいけんもう、宝物(もん)どころじゃなか、我が体(ごちゃぁ)が血だらけになって逃げなったて。

そいぎぃ、家では婆さんの、

「今日は、爺さんの、宝物ば貰って来(こ)らすけん、何でんかいでん、つん燃(む)やせ」ちゅうて、全部つん燃やしてしもうたてったん。

そいて、我がはもう破れ着物(きもん)着とってけん、

「もう、こぎゃんな(このような)破れ着物ば着らんてちゃ、爺さんの良かとば持って来(こ)らす」ちゅうて、

布団の中(なきゃあ)、潜って待っとらすばってん、いっちょん爺さんの来らっさん。

そうしたぎぃ、遅うに爺さんのもう、体の汚れに汚れて、丸裸で、もう血だらけで、帰って来(き)んさったもんじゃい、

「爺さん、爺さん、何したかんたぁ」ちゅうたぎ、爺さんの、

「何もかんも、この前、隣(とない)の爺さんの宝物ば、すっぴゃぁ持って行ってしもうとらしたけんが、

俺ぁ臼ん中ぁで搗かれて、もうちんどろやんしゃで【慌てて】やっと帰ってきた」て言いなったて。

そいぎ、婆さんな、良か着物のくっと思うとったもんじゃい、

裸ぁならしとらしたもんじゃい、爺さんも婆さんも丸裸ぁならしたて。

そいけん、人真似小僧(こうずー)は、いかんばーい、て。

そいが先(さき)ぁ、ばっきゃ(それで、おしまい)

(出典 新佐賀市の民話 P14)

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