佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)
江戸時代の狂歌の蜀山人ね、
その蜀山人のところに、ある日、盆灯籠売りが来たて言うわけよ、顔見知りのね。
そいで、
「盆灯籠のいっこう売れん」て、言うわけよね。
そいぎ蜀山人が、
「その盆灯籠を張り替えろ」て、言ってね、白い紙に張り替えさせるわけよ。
そいぎぃ、がん、蓮の花ばね、色つけて色入りにした盆灯籠が売れんとこれぇ、
どがん盆灯籠ば書いてくるっつもりやろう、て思うて、見よったぎぃ、
蜀山人が、その盆灯籠にね、狂歌ば殴り書きするわけよ。
そいぎ盆灯籠屋は、蜀山人が変体仮名で書いたのを見て、
がん、蛇の這(ほ)うたごたっ字ば書いて、売るっやろうか。て思うたばってん、
しょうがなかもんじゃい、売りに行くわけよ。
そうして、橋の上で売いよったら、そこを通った人が、
「これは、蜀山人の盆灯籠じゃ、いくらか」て、聞くもんじゃい、
今まで売っていた蓮の華の紅入りの盆灯籠の値段を言うたら、
「ああ、そりゃあ安か。蜀山人の盆灯籠のこがん安かなら」ち言(ゅ)うてから、二つも買っていったて。
そいけん、盆灯籠屋は不思議でたまらんてね。
自分の描いた蓮の華の紅入りの盆灯籠の売れんで、こがん、蛇の這(ほ)うたごとっとの何で売るじゃろうか、て思うてね。
そいばってん、どんどんどんどん売れて行って、全部(ぜーんぶ)売れてしもうたて。
そいけん、それこそ、何か、夢見よっごたっ心地で、金儲けしたて言う話。
(出典 さが昔話 P50)