佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 勘右衛門どんの、どこじゃい行って帰って来(き)よったて。

そいぎもう、わが家に着くまで、ひだるーして【空腹で】たまらんもんじゃい、

「どこじゃい、ご馳走どま、なかろうか」ち言(ゅ)うて、思いよったて。

そいぎぃ、ちょうど(丁度)、そん時ゃあ唐津のおくんちやったて。

唐津のおくんちの時は、知り合いにはご馳走ば出すごとなっとっけん。

そいけん、ちょうど、そこの家の親父さんの、どこさいじゃい行きよらす時ぃ、

すれ合(お)うたけん、家ん中に親父さんがおらっさんてわかっとらすやろうが。

そいもんじゃい、そこの家(うち)に行たてさい、若嫁さんにさい、

「私(あたし)ゃあ、あんた方ん親父さんとは仲の良かですもんなんたー」て、

何じゃい、お父さんに自分が一生懸命世話したごと、恩着せてさい。

そいぎぃ、

「そりゃあ、お父さんの、お世話になってすいません。

どうぞ、上がって、何でんなかばってん、ゆっくりして行ってくんさい」て、

お父さんの知り合いないば、ほとめかんばいくんみゃあと思うて、

一生懸命ほとめきんさったて。【もてなされた】

そいぎもう、勘右衛門さんな、たらふく食べたて。

そいでもう、ひょっとして親父さんの帰って来(こ)らすぎいかんと思うてさい、

帰ろうとしよったぎぃ、

「もう、そろそろ、うちんとも帰って来(き)んさろうけんが良かじゃなかですか。

もう少し、おんさらんですかー」ちゅうて、言いんさって。

そいばってん、帰ってきなっぎぃ、大事(おおごと)になって思うて、

「私(あたし)ゃあ、用事ば思(おめー)じゃあたけん【思い出したから】、

お父さんに、よろしゅう言うてくんさい。

もう、留守にお世話になって」ち言(ゅ)うて、帰らしたて。

そいぎぃ、お父さんの帰って来たけん、若嫁さんの、

「留守ん間に、来んさったばんたー、こぎゃんしとの」ち言うたぎぃ、

「ありゃあ。そいは、勘右衛門たい。

あいに、そがんご馳走すっこたーいらんやったのに、お前たちは騙されたばいのう」ち言(ゅ)うて、

お父さんの苦笑いしんさったて。

勘右衛門に、ただ食いされたて。

 

(出典 さが昔話 P39)

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