佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 むかーし。

あるところに源五郎ていう人のおったて。

そいで、源五郎は、笛ば、誰かと交換しとんさっわけたい。

その笛はさい、吹いてから願いごとばすっぎぃ、そいのごとなるわけよね。

そいけん、源五郎がその笛ば吹いて、

「長者の娘の鼻、高(たこ)なれ、たこうなれ」ち言(ゅ)うたもんじゃい、長者の娘の鼻の、くう(とても)高うなってしもうたて。

そいぎぃ、恥ずかしゅうして外へも出られんごとなって、人に会われんごとなったて。

長者やっけんが、お医者さんば呼び寄せて診てもらうばってん、お医者さんでん、良(よ)うならんて【治らないと】。

そいけん、町へ出る時は傘を被ってねぇ、あっちの神様、こっちの神様に、参ってみっばってん、いっこうに治らんて。

傘ば被っとっばってん、傘の脇から鼻のね、ひっとずっ【飛び出る】て言うわけよ。

そいけんね、長者の、

「自分ところの一人(ひとい)娘の鼻ば、低うなしきん者のおんないば、婿養子にする」ち言(ゅ)うて、お触れを出すわけよ。

そいぎ源五郎の、もう良かろう、て思うて、乗り込んで行って、

「自分は鼻ば低うしきっ」て、言うわけね。

そいで、

「鼻、低うなれ。鼻、低うなれ」ち言うて、笛ば吹くわけよ。

そいぎぃ、鼻のシュッ、シュッ、シュッて、低うなって、元に戻ったわけよ。

そいぎにゃあとは、自分は、そこの養子婿に入ってしもうてさい、もう、なんてする仕事のなかもんじゃい、のんびり暮らしよっわけさい。

そいばってん、退屈してたまらんもんじゃい、野原に出てさい、自分の鼻ば、笛吹きながら、高こ(う)なしよったち言うわけよ。

ずーっと、どこまで伸びっこっじゃい、て思うて、しよったぎぃ、それが天まで伸びたて。

そいぎぃ、ちょうど、そん時雷さんの、

「橋桁(はしげた)の弱ったけんが」ち言(ゅ)うて、橋ば建て替えないよったとけぇ、ちょうど良か杭の来たもんじゃい、そいに縛(くび)いつけなっわけよ。

そいぎぃ、鼻のムズムズすんもんじゃい、源五郎が、

「鼻、低うなれ、低うなれ」ち言(ゅ)うて、笛ば吹くぎさい、鼻は上に縛(くび)られとんもんじゃい、鼻の低うなっとにつんのうで【つられて】、自分な上さい、ズーって、引き上がって行くわけよ。

そいぎぃ、雷さんのびっくいしてね、

「こりゃあ、人間の鼻ぞ」ち言うてさい、その縛(くびっ)とった【縛りつけていた】縄ば切りなったて。

そいぎぃ、源五郎はまっ逆さま下さい落ちて行ったて。

そして、落ちてきた所が琵琶湖で、そこで琵琶湖の源五郎鮒になったち言う話。

そいぎぃ、ばあっきゃ。

 

(出典 さが昔話 P28)

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