佐賀市長瀬町 納富信子さん（大14生）
年を取った古老の野狐（やこ）たちがね、
「若（わっ）か者（もん）どんは、言うこと聞かじぃ、
あがんして出て行ったけんが、金兵衛さんから捕られてしもうた。
そいけんがね、今度は、金兵衛さんと話しおうてね、
俺（おい）たち野狐ば捕らんごたっふうに、金兵衛さんと話ば、つきゅうやっか」と言って、
そして、年取った野狐たちが金兵衛さんのところへやって来て、
「金兵衛さん、金兵衛さん。あなたの生活の出（で）くっごとすっけんが、
俺たちば捕らんごとしてもらえんじゃろか」と言い、頼みました。
すると、金兵衛さんは、
「そりゃあ、良かくそう。俺が生活の出くっごとしてくるんない。
あさん【あなた】たちのまとまった銭（ぜん）どん作って来てくるっぎぃ、
俺も何（ない）じゃい、商売どん始むっくそう」と言いました。
野狐たちは、
「そいないば、俺（おい）たちの、どがんしてじゃい、銭（ぜん）ば作って来（く）っけん」と言ったそうです。
それで、金兵衛さんは、
「いつ来（く）っか知らせてくんさい。あさん【あなた】たちの来（く）っとにゃあ、俺もご馳走ばしとかんばらんけん」と言いました。
野狐たちは、
「いついつに金兵衛さんの所（とけぇ）、お金ば持って来（く）っけん」と言って、帰って行ったそうです。
それから、金兵衛さんは野狐たちが来ると言う前の日に、
雨戸の節穴や割れてるところ全部、糊をつけて黒い紙を貼っていました。
それで、近所の者（もん）は、
「また金兵衛さんな、よからんことばしよらすとじゃなかろうか。
野狐どんな、また騙されるっとじゃなかろーか」と笑ってました。
そして、金兵衛さんは野鼠（のねずみ）を捕って来て蒲焼きを作ったり、
田螺（たにし）の蒲焼きを作ったりして、いっぱいご馳走を作りました。
お酒もたくさん買って、待っていました。
野狐たちは、約束した日の夜になったので、ちゃーんと、お金を持って来たそうです。
「あさん【あなた】たちの持って来たのは、本当（ほん）な銭（ぜん）やろない。
まさか、木の葉じゃなかろうもんない」と言って、
金兵衛さんがそれを見たら本当（ほん）なお金だったそうです。
そして、
「さあ、早（はよ）う上がれ、上がれ。酒も燗（かん）がついとっ」と言い、
酒も飲ませて鼠の蒲焼きなど、たくさん食べさせました。
そうしたら、段々と夜中に酔っぱらって来て、
「もう、帰らんばいかんじゃろう」と年取った野狐が言い出しました。
すると、金兵衛さんが、
「まーだ、暗かとこれぇ。宵（えぇ）のうち【夜の始めの頃】、宵のうち」と言いました。
金兵衛さんは節穴や隙間、全部に黒い紙を貼っていたから、お昼になっても家の中は真っ暗でした。
そうして、
「みんな、寝（に）ゅうごとなっぎぃ、隣に布団も敷いとっけんが、そこに寝んさい。
一時（いっとき）寝てから帰っぎぃ、良かやっこう。まーだ、夜中とこれぇ」と言われました。
そして、瓢箪（ひょうたん）枕に野鼠（のねずみ）の蒲焼きなど、たくさん詰めていたから、
その匂いがプンプンして来て、野狐たちは食べたくてたまらなくなりました。
それで、野狐たちは、その瓢箪枕の中に頭を突っ込みました。
そして、野鼠を捕ろうとしたら野狐は顎（あご）が尖がっているので引っかかって出て来れませんでした。
すると、また金兵衛さんはコーンコーンと叩いて、野狐たちを全部捕ってしまいました。
野狐たちは、お金は盗られたうえに命まで取られてしまったそうです。
それから、金兵衛さんに捕まえられて、今頃は野狐がいなくなったと言うことです。
そいぎぃ、ばあっきゃ。
（出典 さが昔話 P5）
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