佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)
むかーしねぇ。
野狐(やこ)がねぇ、人ば騙しよった頃の話。
野狐とい金兵衛さんちゅう人は、野狐を騙すのが上手ち言(ゅ)うて。
そいぎぃ、ある冬の寒ーか日のこと、
天山おろしのビュービュー吹く寒ーか日に百姓さんたちが、
「今日のごと冷やか日にゃあ、早(はよ)う上がって、雑炊(ズーシー)どん食うて温(ぬく)もったが、ましまし」ち言(ゅ)うて、
お百姓さんたちは早めに田んぼから上がって行きなったて。
そいぎ、金兵衛さんが独り言をブツブツ言いながら、
「今日のごたっ日が、良かもんない」て言うて、厚ーか綿入れの半天ば着て。
そいで、腰には太ーか、藁(わら)でのうた帯(おび)ばして。
そいで、尻のところで尻尾んごと、長(な)ーご垂らして。
そいて、堀(ほい)の岸に座っとんさったて。
そいで、北叟笑(ほくそわりゃ)あしながら【ニヤニヤ笑いながら】、じーっとしとらすて。
そいぎぃ、そいば、藪(やぶ)の中から野狐どんが見よっわけ、
若(わっ)か野狐が。
野狐も金兵衛さんには気をつけてるわけよね。
いつも、自分たちの仲間が捕まえられるから。
そいで、
「今日は、おかしかよ、金兵衛さんな。あの堀の岸で何しよらすじゃいかん」て言いよったて。
そいぎにゃあとが、年とった野狐(やこ)どんが、
「お前たちが、何じゃいしよっぎぃ、また、金兵衛さんに騙さるっぞ。出て行くなよ」ち言(ゅ)うたばってん、
若(わっ)か野狐たちは金兵衛さんのしよらすとが気になって気になってしょんなかもんじゃい、
そーっと行って、
「金兵衛さん、何しよっかんたー」て聞いたて。
そいぎ金兵衛さんの、
「おーう。俺(おり)ゃあ、田螺(たにし)取いよっくさー。
今日のごたっ日は、田螺のくう取るんもんない【たくさん取れるよ】」ち言(ゅ)うて、
「あさんたちも、田螺は、くう【すごく】好(し)いとろうが」ち言うて。
そいぎ野狐の、
「田螺は好いとっばんて、どがんすっぎ【どうしたら】田螺の取るっかんたー」て、聞いたけん、
「うん。じぃっと、尻尾ば川ん水に漬けとっぎぃ、田螺のかかってくっ」て言いんさったて。
そいぎにゃあとは、野狐の、
「ほんな(本当)ごとかんたー【本当ですか】」て聞くもんじゃい、
「そがん太か声出さじぃ、じぃっとして尻尾ば下げて、座っとけー」ち言(ゅ)うて、
金兵衛さんが言うもんじゃい、そうして、じぃっと座っとったて。
そしたら、何じゃい尻尾の辺(にき)の重(おふ)とうなったごたっ【重くなってきた】気のして来て、
「金兵衛さん。尻尾の重(おふ)とうなったごたっよう」て言うもんじゃい、
金兵衛さんな、
「そりゃ、田螺のかかいよっとっ。じぃっとしとけ、じぃっとしとけ」ち言うたて。
そいけん、若(わっ)か野狐どんは、じぃっとこらえとったて、みんな。
そうして、明け方になってから、
「ああ、こいで終わった」ち言うて、
金兵衛さんな、自分の腰に巻いとった荒縄ばスポーっと、捨てて立ち上がったて。
そいぎ、若か野狐どんが、「こりゃあ、しもた」て思うたばってんが、
もう尻尾は氷でがっちり凍っとんもんじゃい、
もう動かれじぃ金兵衛さんから
「コーンコーン」て叩かれて捕られてしもうたて。
そいぎぃ、ばあっきゃ。
(出典 さがの昔話 P2)