佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 むかーし。

龍宮の乙姫さんがね、病気になんさったて。

そいぎお医者さんが、どがん薬ば飲ませても良うならんて。

そいけん、

「もう、こりゃあ、どがん薬ば飲ませても良うならんけんが、

猿の生き肝ばし飲ませじにゃあ」ち言(ゅ)うことになったて。

そいぎぃ、猿の生き肝なんて誰(だが)取いに行っか、てなって、

「誰(だい)か良か。貝が良か」て、言いよったばってん、やっぱい、

「龍宮まで連れて来(こ)んばらんけんが、亀ば使(つき)ゃあにやらじゃこて」ち言うことになって、

亀が使いに行ったて。

そいで、亀が陸さい上がったぎぃ、

猿のおったもんじゃい、

「猿(さっ)どん。猿どん」ち言うたぎぃ、猿どんが、

「何(なん)かい」て。

「龍宮ちゅう所(とこ)さい、行(い)たことあっこう」ち言(ゅ)うたぎぃ、

「龍宮てん何(なん)てん、行たごとなか。龍宮てどがん所こー」て、言うたけん、

「そりゃあ、龍宮ちゅうところは、食おうごたん物(もん)は目の前にパッて、出て来(く)っしぃ、

乙姫さんちゅう人のおって、そのお付きの女の人たちが、いつでん側におって、極楽浄土のごたっところばい」て、言うもんじゃい、

食いしん坊の猿が行ってみゅうごとしてたまらんごとなったて。

そして、亀の背中に乗って龍宮城さい行ったて。

そいぎ龍宮城では、猿の肝ば太らせんぎいかんもんじゃい、

猿にわからんごと、猿にどっさい【たくさん】ご馳走ば食べさしゅうでしたて。

そいぎ猿は、そがんことはいっちょん知らんもんじゃい、

乙姫さんのお付きの女の人からちやほやされて、うまか物(もん)な腹いっぱい食うとったて。

そいぎにゃあと、ある日、蛸(たこ)てん海月(くらげ)てんが、

「かわいそうにねぇ」ち言(ゅ)うて、話しよったて。

「あい【猿】は、終(しま)いには殺さるって、自分は知らじぃ、一生懸命食いよっばん」ち言(ゅ)うて、話しよったて。

そいぎ海月が、あんまい気の毒しゃあ思うて、

こそっと、猿に、ちぃ【つい】言うてしもうたて。

そいぎにゃあと、もう猿がびっくいして、こりゃん、早(はよ)う逃げんばいかんばいて思うて、亀さんに、

「俺(おい)の生き肝ば取ってんなん話のあいよっばってんが、

俺(おり)ゃあ肝ば裏の柿の木ひっかけてきたもんにゃあ、来(く)っ時ぃ」ち言(ゅ)うたて。

そいぎぃ、

「そんないば、取って来(こ)んぎいかんやっかんたー」て、言うもんじゃい、

「取って来んばいかんくそー【だめだよ】。

あさん【あなた】、ご苦労ばってん、もう一回、陸さい連れて行ってくれんこう」て、亀に言うたて。

そいぎ亀が陸さい連れて行(い)たて。

そいぎぃ、陸に着いたぎ、猿が、

「この、馬鹿たれ。生き肝てんなんが、何で木に引っかかっとっか。俺の体ん中(なきゃ)あっくさん」ち、言うたて。

そいぎにゃあとは、亀は、もうびっくいしたばってん、しょうがなかもんじゃい龍宮さい帰って来たて。

そいぎぃ、

「誰(だい)が、そぎゃん猿に生き肝ば取ってんなんてん【取るとか】言うたとじゃろうか」ち言(ゅ)う話になったて。

そうしたぎぃ、

「海月じゃい、蛸じゃいやろう」て、わかったて。

そいぎ、海月と蛸は臼に入れられて臼搗きの刑におうたて。

そいで、もう骨もなかごと、クチャンクチャンになってしもうたて。

そいから、亀は阿壇(あだん)【集合果】じゃいの実か何かば投げつけられて、

そいが亀の甲羅(こうら)に当たって、甲羅に六角の傷の出来(け)たとか言うて。

そいぎぃ、ばあっきゃ。

(出典 さが昔話 P22)

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