佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 むかーし。

あるところにね、仲の良か親父さんたちがおったて。

そいぎぃ、一人の親父さんがね、何しても、あんまり思わしく行かんもんじゃい、

町に竹で作った箒(ほうき)ば売りに行ったて。

そいで、箒の売れんで日暮してしもうたところに雨まで降ってきたもんじゃいね、

そこの祠のあったところにね、ちょっと雨宿りしとったわけよ。

そして、ウトウトーって眠いよったところが夢の中でね、神さんたちが話よんさっとの

聞こゆっわけよ。

「ありゃあ、今日は何とかの部落に子供が二人(ふたい)産まるって。そいばってん、

女子(おなご)の子はねぇ、長者の位持って産まるっばってんねぇ。

こりゃあ、かわいそうに男の子は運のなか子の産まるんにゃー」て、話ないよっわけたい。

そいぎぃ、そいば、うつーらうつら、箒(ほうき)ば売いよった親父さんの聞いとんさって、

うちの嬶(かか)も臨月やっとけねぇ、明日さっそく帰ってみゅう、て思うて、そして、

次の日、帰らすわけたい。

そいぎぃ、自分ん方んには、男ん子の産まれとっわけよ。

そしたらさい、その仲の良か友だちの家は女子(おなご)ん子の産まれとったて。

そいぎぃ、雨宿りしたとこで見た夢の中で神さんの、

「女子ん子は、長者の位ば持って産まるっ」て、言いないよったもんじゃい、こりゃあ、

もう早(はよ)う許嫁(いいなづけ)にしとかんば、て思うてさい、

「あさん所(とこ)【あなたのとこ】には女子の子の産まれて、うちは男の子の産まれた

けん、ちょうど(丁度)良かやっこう、自分の息子と許嫁にしてくんさい」て、頼みんさ

ったて。

そいぎ、親同士、友だちで仲の良かもんじゃい、

「うん、良か、良か。そがん決めとこのー」ち言うて、決めときなっわけよ。

そいぎぃ、子供も許嫁て思いながら、太(ふと)う【大きく】なっていくばってん、

箒作いよった所(とこ)の息子は、いっちょん、うだつの上がらんわけよ。

いくら、稼いでも稼いでも金が貯まらんて。

そいぎぃ、女子の子はかわいい娘になってさい、村の長者さんところに見習いに行くわけね、

女中奉公をしにね。

そいぎぃ、その女子ん子な、かわいいて気の利いて何でん出来(でくっ)けんねぇ、

長者さんにたいそう気に入られたて。

そいぎぃ、そがんしよったぎぃ、その箒(ほうき)売りの息子が、その長者さん所(とけ)ぇ、

毎日ぃ箒ば売いに来たて。

そいぎぃ、その女中の許嫁てわかったもんじゃい、長者さんの、

「良か、良か。早(はよ)う買(こ)うてやれ。買うてやれ」ち言(ゅ)うて、

ごっとい【いつも】箒ば買いないよったて。

そいぎぃ、ごっとい買いないよんもんじゃい、本当(ほんな)ごて、

箒ば置くとこのなかごといっぱいなったて。

そいで、年の暮れに、その箒売りが、また来たて。

そいぎぃ、

「年の暮れにね、箒ば買うところもなかろうけん、かわいそうにねぇ」ち言うてね、長者さんが、

「味噌も搗(つ)いとっじゃいわからんけんが、重箱に味噌ばいっぱい持ってこい」ち言(ゅ)うて、

その女中に持って来(こ)らせなったて。

そして、味噌の中に小判ば何枚じゃい入れてやいなったて。

この娘はね、許嫁どん、おらんない、うちの息子の嫁にでんして良か、て思いないたよっばんてん、

その箒(ほうき)売りと許嫁て決めとらすことのわかったもんじゃい、

かわいそうに思うて、やいなったて。

そいぎにゃあとは、その男の子がさい、味噌ば貰(もろ)うて帰りよって、味噌ば貰うたっちゃあ、

入るっもんの何でんなかー、て思うてさい、その味噌ば人にやってしまうわけよ。

そして、我がは、そこで野たれ死ににすっわけ、年の晩に。

味噌の中には三両も小判の入っとっとこれぇ、そりゃあ知らじ。

そいけんが、味噌は人にやんもんじゃなかて。

運気ば取られてしまうちゅうて。

そいぎぃ、ばあっきゃ。

(出典 さが昔話 P91)

標準語版 TOPへ