佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 むかーし。

雨が降りそうな日の夕方に、爺さんと婆さんが、

「今日は、雨の降っとじゃなかとかねぇ。

早(はよ)う、飯どん食うて寝じゃこてぇ」と言ってました。

それで、

「今日も また古屋の漏いの はじまっとじゃろたい」と言いました。

すると、今度は婆さんが、

「今日のごたっ日は、山犬の、

また山から下って来っとじゃなかろうかねぇ」と言ったら、

爺さんが、

「小馬の生まれとっことやしぃ、馬小屋どま きちっと閉めて寝らんばあ。

そいばってん、山犬よいか何よいか、古屋の漏いの、いちばん怖(えす)かのう」

と言ってました。

そして、山犬が ちょうどそこの家の表の所で その話を聞いていたのです。

山犬は、

「世の中には、俺(おい)よっか怖か古屋の漏いちゅうとのおっばいねぇ。

爺さんな、

『山犬ぐらいは怖うなかばってん、古屋の漏いが怖かあ』ちゅうて、

言いよったけん」と言いました。

それで、

「古屋の漏いて言う、

俺(おい)よいか怖(えす)かとば見とうごともあっばってん」と言って、

家の隙間(すきま)から入って、厠(かわや)へ行ったそうです。

そして、ちょうどそこに馬泥棒も入り込んでたそうです。

それで、馬泥棒も天井裏で山犬と同じように、

お爺さんの話を聞いて、

「古屋の漏いちゅう、山犬よい怖かとのおっない、ひとつ見てみたかにゃあ、」と思ったそうです。

すると、ゴジョゴジョ動くのがいたので、馬泥棒は、

「ああ、出てきたばい」と、あわてて飛び乗って しがみつきました。

しかし、それは山犬でした。

今度は、その山犬が、

「古屋の漏いに憑(と)いつかれた、」と思って、驚きました。

それで、しがみついている馬泥棒を 向こうの穴の中へ振り落とさなければと思い、一生懸命走って行って、振り落としました。

そして、次の日、猿どんの所(とこ)へ行って、

「猿(さっ)どん、ゆうべ、俺(おりゃ)あ、怖かめにおうたばん」と言いました。

猿どんは、

「何(なん)の、そがん怖(えす)かめにおうたかん」と言ったら、

「なにしろ、古屋の漏いちゅうて、爺さんの、

『山犬よい怖(えす)か』て、言わした古屋の漏いちゅうとに、憑りつかつかれた」と山犬は答えました。

「俺(おい)が背中に、もう乗ってきて首につかまって、

もうどがんでんされんやったばってん、俺も死に物狂いで、

あの穴ぼこさん、振い落として来たくさあ」て。

すると、猿どんが、

「古屋の漏いてんなんでん、俺(おり)ゃあ、聞いたごたーなかばん」と言うから、

「そんない、猿(さっ)どん、一緒に見に行ってみようか」と山犬は言いました。

「良かたん、行こうだん。俺も、古屋の漏いてんなんてん、初めて見っとやっけん(【見るから】」

と、二人(ふたい)で見に行きました。

そして、猿どんが、

「どこの穴っぼこー」と言ったから、

「ここ、ここ」と答えました。

そいぎ猿(さっ)どんが、穴の中を見るけど、真っ暗で何も中は見えません。

「俺(おい)尻尾で捜してみようかー」と言って、

長い尻尾を、その穴の中に入れてみました。

すると、そこに入っていた馬泥棒が、

「もう、こりゃあ、誰(だい)じゃい、助けに来てくれたばい。

綱ば降ろしてくいたばい」と、その尻尾に飛びつきました。

それで、猿どんは驚いて、

「本当(ほん)に、古屋の漏いのおったばい」と言いました。

そして、猿どんは

「わい【お前】も、加勢(かせい)せんか」と言ったので、

山犬は、猿どんを引っ張ってみました。

すると、一生懸命引っ張ったものだから、猿どんの尻尾が切れてしまいました。

それから、日本猿は、尻尾が短くなってしまったそうです。

そいぎぃ、ばあっきゃ。【それで、おしまい】

(出典 さが昔話 P71)

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