佐賀市長瀬町 納富信子さん（大14生）
むかーし。
もっくり木兵衛さんて言う人がいました。
その人はね、もう区役【村の仕事】などに行ったら、全然、仕事をしないそうです。
いつも、ダラダラダラして、ご飯の出る時になると、ムクムクと起きて来てモクモクと食べるんです。
すると、その隣に、やさしいお爺さんがいました。
そして、いつも木兵衛山に登って焚（た）き木を取って来てました。
ある天気の良い日にね、ちょうど、昼頃になったから、
「さあ、婆さんが作ってくれてた、おむすびでん食びゅうか」と思い、
膝（ひざ）の上に、おむすびの包みを出して食べ始めました。
そして、ちょっとしたはずみで、おむずびがコロコロコロと、
そこにあった穴の中に落ちました。
すると、穴の中から鼠の小さい声でね、
「にぎめしコロリン、にぎめしコロリン、トッテントン」と聞こえました。
それで、爺さんは、かわいい声で何だろうかと思い食べるのを忘れて、おむすびを、また転がしました。
そして、また、
「にぎめしコロリン、にぎめしコロリン、トッテントン」と聞こえたものだから、
また転がして、結局、持っているだけ全部のおむすびを転がしてしまいまいた。
それで、もうおにぎりがなくなったものだから、今度は、弁当風呂敷きを丸めて転がしたら、
「風呂敷きコロリン、風呂敷きコロリン、トッテントン」と穴の中へ落ちて行きました。
そして、爺さんは、
「今度あ、俺（おい）が転んで来るっ」と言って、自分で穴の中に入って行ったら、
「爺さまコロリン、爺さまコロリン、スッテントン」と、落ちて行きました。
すると、そこには、小さな火鼠（ひねずみ）【南の島の架空動物】がいて、みんなで歌ってました。
それで、爺さんを見て、
「ありゃあ、お爺ちゃん。今日は、お爺ちゃんから、おむすびもらったから、そのお返しに、これ持って行って」と言って、
お爺さんに、お大黒さんの小さいのをくれたそうです。
そして、爺さんは家に帰り、婆さんに、
「婆さん、もう今日は、ひもじぃ【お腹すいた】、ひもじぃ。早（はよ）う、夕ご飯にしてくれぇ」と言われたから、婆さんは、
「お爺さん、お弁当ば、あがんどっさい（沢山）持っていって、どがんしたとですか」と聞かれました。
すると、
「いんにゃ【いや】、こがん、かくかくしかじかの次第で、鼠にやって来た。
その代わりぃ、こがん、かわいらしかお大黒さんば貰（もろ）うて来た」と言われました。
そして、大黒さんを神棚に祀られました。
次の日の朝、目を覚まし、そのお大黒さんを見たら鼻から米粒が一粒ずつポロポロポロと出ていました。
そして、米粒は余分には出て来ないけど、お爺さんたちが食べ切れないくらい、毎日毎日、出たそうです。
すると、隣の木兵衛爺さんが、それを見てね、
「俺（おい）にも、ちょっと貸してくれんね」と言いながら、やって来たそうです。
そのお爺さんは、お人好しだから、
「良か、良か」と言ってね、貸してやったそうです。
すると、一粒しか、ご飯粒は落ちて来なかったそうです。
それで、木兵衛爺さんは大黒さんの鼻の穴を、大きく広げました。
すると、泥がドロドロドロと出て来てね、その中に木兵衛爺さんは埋まってしまったそうです。
それで、出来た山が、もっくり木兵衛山と言います。
そんなお話。
そいでばあっきゃ【それでおしまい】。
（出典 さが昔話 P9）
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