佐賀市大和町尼寺 森永シゲさん(年齢不詳)
むかぁしなた
お医者さんのね、病人ばね、見舞いに行きよんさったてね。
そして、子供が蛇ばね、苛めよったもようじゃなた。
そいけん、
「その蛇ば逃がさんね」て、お医者さんのね、子供に頼みんさったもようじゃなた。
そいて、何じゃい、くんさった【くれた】やろうなた。
そいけん、子供が蛇ば逃がしたもようじゃなた。
そうして、何日か経ってから、その蛇が娘さんに化けてお医者さんのところになた、お礼に行きんさったとやろ。
そうして、賄いから炊事でん何でん、ずうっとしよっうちぃ、ちょっと奥さんのごとなって、子供がなた、生まれたもようでござんすもん。
そいぎなた、その娘さんな、お医者さんの出かけんさっぎなた、すぐ、雨戸ば閉(せ)ぇてなた、子供をあやしよんさったもようじゃなた。
そいぎ、しばらくして娘さんが、そげなことをするという評判が立ってな、お医者さんもその噂ば聞いてなた、ある日、こっそい早(はよ)う帰って来て雨戸の後ろから、こうして、中ば覗きよんさったぎなた、娘さんな蛇(くちなわ)になってなた、そして、子供に乳ばなた、飲ませよんさったて。
そいぎ、お医者さんな、そいば見てしもうたもんじゃからなた、やっぱぃ、その娘さんに話しんさったとやろ。
そいぎ、その娘さんな、
「姿ば見られたから、もうおられん」ちゅうてなた。
「もう、私(あたし)ぁ帰っけんなた、子供が泣くないば目ん玉ば一つやっけんね、泣く時ゃあ、そいばしゅうらすっぎなた【舐めらせると】、泣くとが止まっ」て、そがん言うて、山の中の池の中に入ってしもうたてなた。
そいけん、お医者さんが一人(ひとい)で子供ば育てよんさったぎ、貰(もろ)うた目ん玉の、無(の)うなったもようじゃなた。
そいぎ、お医者さんの、どがんしゅうもなかもんで、その池に行たてなた、
「ぎゃんして【こうこうして】、目の玉ばなた、無うなかしてなた、本当(ほん)に子供が泣いて困っけんね、本当にすまんばってん、まぁ片方(かたっぽ)の目ん玉もくれんね」て頼みんさったて。
そいぎなた、
「両方の目ばやっぎなた、いつの時刻こっじゃい分からんけんね、鐘ばなた、ついてくんさい」ちゅうてなた、もう片一方の目ん玉も、やいなったて。
そいぎ、そいで子供が、よう育ったじゃろうだいなた。
そいで、お寺の鐘はなた、明け六つと暮れ六つにつくようになったてなた。
そいばっきゃ(それでおしまい)
(出典 大和町の民話 P4)