佐賀市長瀬町 納富信子さん(大14生)

 むかーし。

お爺さんとお婆さんが山んわきで暮らしよんさったて。

爺さんな、いつーも山の畑にね、田ば打ちに行きよんさったて。

そいぎぃ、そこの畑には大きな石のあって、いつーも狸が来てね、その石に腰掛けて、

あの爺が田打つにゃー

左(ひぃだり)ぎぃにゃー ギッカンショ

右(みぎ)ぎぃにゃー ヨーロヨロ

ち言(ゅ)うてから、いつーも、爺さんば冷やかしよったて。

そいぎ爺さんな、こん畜生(つくしょう)。今にみとれ。て思うてね。

そいで、ある日、爺さんがね、今日は、天気のよかけんが、あいも来っじゃろう、て思うて、

鳥(とい)もちばどっさい(沢山)作ってね、そいば、石の上にペターって、塗っとんさったて。

そうしたら、案の定、狸の来てから、そけぇ腰掛けたてね。

そいぎ爺さんが、今日は、わが、逃ぎゅうでしたっちゃ、逃げられんじゃあ、て思うてね、

すまーしてからね、田ば打ちよんさったて。

そいぎにゃあと、また、

あの爺が田打つにゃー

左(ひぃだり)ぎぃにゃー ギッカンショ

右(みぎ)ぎぃにゃー ヨーロヨロ

ち言(ゅ)うたて。

そいぎ、爺さんが、

「んこん畜生(つくしょう)」て言うて、鍬(くわ)ばかたげて(背負って)追いかけんさったて。

そいぎぃ、狸は逃ぎゅうですっばってんね、

もう尻は、べったい鳥(とい)もちのちい(つく)とんもんじゃい、動かれんて。

そいで、爺さんから鍬でコツーンて、頭ば打たれたもんじゃい、気絶してしもうたて、狸が。

そいぎ爺さんな、縄もちゃんと用意してきとんさったとやろ。

その縄でくびって、そいで、わが家へ連れて帰んさったて。

そいしてから、わが家の梁に、狸ばくびって下げとんさったて。

そいで、婆さんに、

「お前、何んばこいから言われたっちゃ、縄ばほどいてやっぎぃ、いかんぞー」て言うて、

お爺さんな、また、山に野良仕事に行きんさったて。

そいぎ、婆さんな、稗ばつきよらしたて。

そいたぎにゃあとは、狸が

「お婆あちゃん、稗はなかなか皮のはげんじゃろが。俺(おい)がかわって搗いてやろうか」ち言(ゅ)うもんじゃい、

「いんにゃあ。お爺さんの『お前ばほどくぎいかん』て、言うとんさっけん、でけん。

年中、俺がしよっことやっけんが、何でんなか」て、言うたて。

そいぎぃ、また狸が、

「いやー、婆ちゃん、見よられんよ。あんたが、そがんしてしよっとば見っぎぃ」て、言うもんじゃい、

「いんにゃあ。絶対でけん」て、言うたぎぃ、

「そいぎぃ、俺(おい)が稗ば搗いてしもうだぎないと、また俺ばきびっとっぎよかやいね」て、狸が言うたて。

そいぎ婆さんな、

「そがんこつ言うて」ち言(ゅ)うたばってん、

ちょっと腰の痛かったもんじゃい、頼もうかにゃあ、て思うて、ほどいてやんさったて。

そいぎもう、その狸がお婆さんば殺してしもうてね。

そいで、殺してから自分が婆さんの衣ば着て、爺さんば待っとんさったて。

そいぎじ、お爺さんな山の畑で、

「今日は帰ったら、狸ばじゅぅって(料理して)、狸汁とんして婆さんと二人(ふたい)で食わじゃあこてー」ち言(ゅ)うて、

夕方になったけん、帰って来(き)んさったて。

そいぎ婆さんの、

「狸汁、できとんばんたー」て、言いなっけん、

「あさん、どがんしてじゅぅった(料理した)こー」ち言うたぎぃ、

「なーい。簡単くさー、狸ぐらい」て、言いなっもんじゃい、爺さんは、婆さんの汁ば炊いたとて知らじ食いんさったて。

そいぎ婆さんの、

「あーら。爺さん、棚ん上ば見てみやい」ち言(ゅ)うたて。

そいぎ爺さんな、婆さんがそがん言うないば。て思うて、棚ば、こうして見らしたぎぃ、そこに婆さんの頭ば置いてあったて。

そいぎもう、びっくいして、

「わがなんかー」ち言うて、爺さんが婆さんば追いかけたて。

そいぎ婆さんが、クリって、向こう向いたぎ尻尾のひょっと見えたて。

そいで、狸てわかったて。

そいで狸は、

「婆汁食うた。馬鹿親父」ち言うて、逃げていったて。

そいぎ爺さんは、もう、婆さんば殺されたもんじゃい、ガックリしとんさったて。

そいぎぃ、爺さんの畑んところに、よう出てきよった兎が、

「爺ちゃん、話ば聞いたよ。ほんにあんた悲しかったねぇ。私(あたし)が仇ば討ってやっけん、元気ばださんね」ち言うたて。

そいで、ある日、兎が狸の所(とこ)さい行って、知らん顔して、

「狸さん。もう、そろそろ冬になるけん、薪ばといやいこうかい」ち言(ゅ)うたて。

そいぎ狸も、

「俺(おい)も、冬の準備せんばて思うとったもんじゃい、行こうかのう」ち言うて、

二人(ふたい)で薪ばいっぱい取ってからね、背負って狸が先に行きよったて。

そいで、兎が、びゃあら(薪)に火ばつけやろうで思うてね、火打ち石ばね、カチカチて、鳴らしよったて。

そいぎぃ、

「後ろでカチーカチーいうとは、何かん」て、狸が言うたぎぃ、

「あいはカチカチ山のカチカチ鳥たん」て、兎が言うたて。。

そいけん、

「うーん。カチカチ山のカチカチ鳥か」ち言うたて。

また、行きよったぎ今度(こんだ)、ボーボー音のしてきたて。

そいぎぃ、また狸が、

「ボーボー、音のしよったあ、何(ない)かん」ち言うて、聞いたぎぃ、

「あいは、ボーボー山のボーボー鳥たん」ち言うたて。

そいぎぃ、焚き物のボーボーで燃えてきたもんじゃい、

狸が火傷(やけど)をして、「アッチッチ、アッチッチ」て、逃げて行ったわけね。

そいで、自分の家に帰ってから、

「今日はひどか目におうたのう」ち言(ゅ)うて、休んどんさったて。

そいぎ兎が、今度(こんだ)あ、お見舞いちゅうてから、また来たて。

「この間は、ほんに(本当に)災難やったなんたー」ち言うてから、

「火傷に、ゆう(よく)効く薬(くすい)ば持ってきたけん。こいば塗っぎにゃあと、すぐゆうなっぱんたー」ち言うて。

そうして、からしば練ったもんば狸の背中にベターって、貼ってやったて。

そいぎぃ、皮のむけたところに、からしばベターって塗ったもんじゃい、

ヒラヒラヒラヒラして、狸はもう、トンビトンビして跳ねまわったて。

そうしたら、またしばらくして兎が来てね、

「もう、山はこりごりしたけんが、今度(こんだ)海さい行こうか。俺(おい)が舟ば作ったけん」て、言うたて。

そいぎ狸が、

「この前んこたー、なかろうなー」て、言うけん、

「年中、そがんふの悪かことばっかいはあんもんかい」ち言(ゅ)うもんじゃい、狸も

一緒に海さい行たて。

そいぎ兎は、自分の舟は木の舟作って、狸の舟は泥の舟作っとったて。そいで、その泥舟に狸ば乗せて。

そうして、沖まで連れて行ってね。

そいで、

「ここんたり来たぎぃ、よか景色なーい」ち言(ゅ)うて。

兎が舟ば、櫓(ろ)でカタンカタン叩いて、拍子とって歌うて。(その歌が、軍歌なんだけどね。)

四面海持て囲まれし わかしき島はあきつしま

ほかなる敵を防ぐには 陸に砲台 海に船

ち言うてね、舟ば櫓で叩きながら、調子ばとって歌いだしたて。

そうしたぎにゃあとは、狸も真似して歌いだしたて。

そいぎぃ、そうして叩くもんじゃい、

狸の舟は泥舟でひびの入ってね、水ん中に入ってしもうて沈んでしもうたて。

そいぎぃ、ばあっきゃ。

(出典 さが昔話 P13)

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