小城市牛津町練ヶ里 吉田 正さん(明43生)

 ある時、殿様に、魚を彫って献上することになったそうです。

そうしたら、

「誰(だい)がすっか」ということになったけれども、

誰も、自分が作るという人がおらず、決まらなかったそうです。

それで、

「それじゃぁ、皆で彫って出そう」ということになって、

腕に覚えるある者はみんな、魚を彫ってお殿様に献上することになったそうです。

それで、何日も前から彫りはじめよったそうですが、

一人、本当に上手な人がおったけれども、一向に彫り始めようとしないそうです。

そうしていたら、献上する日の朝になって、

その人がサーッと彫って、持って行ったそうです。

そうして、お殿様の前に、献上したものを並べたところが、

「どいが良かか、どいが良かか」て言うて、なかなか決まらなかったそうです。

そうしたら、誰かが、

「魚じゃもんじゃい【魚だから】、猫に見せた方が一番良かろう」と言うたので、

猫をつれてきたそうです。

そうしたら、猫は、上手な人が、その日の朝に作ったもののところにサーッと行って、

かぶりついて【噛みついて】持っていったそうです。

それで、

「やっぱり、あいがとか【あいつのものが】一番よか」ということになったそうですが、

後から聞いたら、

「ありゃぁ、鰹で作ったもんじゃぼう」て言いなったそうです。

(出典 牛津の民話 P27)

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