小城市牛津町砥川 小柳 九八さん(明36生)

 むかぁし、船大工の棟梁のうちに、きじ猫が一匹住んでいたそうです。

棟梁の家には、船頭さんが、よく風呂に入りにきたりなんかしよったそうです。

ある時、いつもの通り船頭さんが来て、棟梁と一緒に、酒を飲んでいたところが、

猫が、こっそり棚から鰯を盗っていったそうです。

そうしたら、棟梁の家の嫁くさん【嫁】が

「鰯の一匹足らん」と言って、その家にいた弟子達に、

「わがども【お前達】が食っとろう」と怒ったそうですが、

船頭さんは、そがんことはなか、と思っていたそうです。

それで、その晩、棟梁の家に泊まって、

あの猫がどがいじゃい【どうにか】したとじゃなかろうか、と思うて、

徳利には手ぬぐい【タオル】を被せて、自分は布団を被って寝ていたところが、

その猫が出てきて、剃刀の刃を舐めよったそうです。

そうしていたら、朝になったので、船頭さんは、朝早うから、

石炭を船に積んで、有明海に出たそうです。

そうしたら、船の胴回り(荷を積んでいる所)から、その猫が見つかったそうです。

船頭さんに正体を見られたから、殺そうと思うて、そこに隠れていたのではないでしょうか。

そうしたら、船乗り全員でその猫を追いかけたので、

その猫は、海の中に飛び込んだそうです。

それで、

「あぁ良かった」と言って、何日かして、また棟梁の家に行ったそうです。

そうして、

「猫はどがんしたかい」と聞いたら、

「ないもかいも【どうしたものか】、あさんが【お前が】船出してから、

もう痩せてしもうて帰ってきたぼう」と言うので、

「そいで、どかんしたない」と、また聞いたら、

「死んだやっこう」と言ったそうです。

それからしばらくして、また、船頭さんが棟梁の家に来た時、

その船頭さんは、とても南瓜(ぼんたん)が好きだったので、棟梁が

「南瓜(ぼんたん)を煮とっぼう【煮ているよ】」て言うて、

食べさせようでしたそうです。

そうしたら、船頭さんが、

「その南瓜(ぼんたん)な、どけぇで作っとったぁ(どこで作っていたか)」

と聞きなったので、棟梁が

「いんにゃぁ【いいや】、南瓜の種ば播(み)ぁやぁとりゃあせんじゃったばってんが

【播いていないのに】、勝手になっとったぁ」と言ったそうです。

それで、おかしかねぇ、と思うて、南瓜(ぼんたん)が生えていた所を掘ってみたら、

その南瓜(ぼんたん)の根が、猫の目の玉から出ていたそうです。

それで、昔の人は、

「どがんこってん(どんなにしても)、南瓜(ぼんたん)の自然に生えたとはねぇ、

食うこんあんじゃぁ【食べることはできない】」と言っていました。

(出典 牛津の民話 P69)

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