小城市三日月町東分 北島フクさん(明31生)

   むかーし、一人者のお爺さんがいらっしゃいました。

そのお爺さんは、自分がご飯を炊くのが嫌なので、

美味しい匂いがすると、隣の家に行って食べさせてもらっていたそうです。

昔は、普通、ご飯を食べる頃に誰か来たら、

「食べていいですよ」と言って食べさせていましたからね。

それで、その次の日は、別の家に行くという風で、

次から次に、よその家でばっかりご飯を食べよったそうです。

それでも、そのお爺さんには、良いところが一つあったそうです。

自分がたまに、ご飯を炊いたら、焚いた釜の蓋の上に、

「赤鬼さん、青鬼さん、白鬼さん、これを食べてください」と言うて、

お茶碗に少しずつご飯を盛って、上げられていたそうです。

そうしたところが、ある時、お爺さんが亡くなって、

地獄に連れて来られたそうです。

そうしたら、エンマ大王さんが、

「お前は、ご飯は他所(よそに行ってばっかい【ばかり】食べて、

自分が焚いて食ぶっちゅうことはせん、ふゆうぼう【怠け者】じゃ。

お前こそ、地獄の窯に入れんばいかん。

早(はよ)う、釜ん中(なきゃ)あ、水入れて、

千束(せんば)の藁ば炊いて、こいつば入れろ」と家来の鬼に命令したそうです。

しかし、その鬼達は、お爺さんから ご飯をもらっていた鬼だったそうです。

それで、エンマ大王さんの言うことは聞かないといけないけれども、

そのとおりにすると、お爺さんが とても釜の中には入っておられないので、

藁(わら)を千束(せんば)焚かずに

お爺さんをお湯に入れて、エンマ大王さんには、

「千束(せんば)、焚いてしまいましたが、

平気で、ああやってお湯の中に入っております。」と言ったそうです。

そうしたら、エンマ大王さんが、

「そうか、それじゃ、しょんなかけん【しょうがないので】、鉄の棒の焼いたとば噛ませろ」

と言われたて。そうしたら、その鬼達は、今度は、ゴボウの大きい物を見つけてきて、

それをお爺さんに焼いて食べさせたそうです。

そうして、エンマ大王さんに、

「エンマ大王さん、見て下さい。藁を千束炊いたお湯に入るくらいの男じゃから、

鉄の棒ぐらい平気で、噛みくだきよっですよ」て言ったそうです。

そうしたら、エンマ大王さんが、

「そんない、そりゃぁ、極楽さいやらにゃあ、しょんなかたい。もう地獄には置かれんたい」

と言うて、そのお爺さんを極楽にやったそうです。

そうしたら、お爺さんが極楽に来てみると、極楽にいる人はみんな、

極楽のハスの上に座って、おご馳走を食べて、話したり笑ったり、とても賑やかだったそうです。

それでも、自分は、そういう話したりする人がいないので、

たった一人ハスの上にちょこんと座ってご馳走食べるだけだったそうです。

それで、言われたそうです。

「あぁ、やっぱり地獄がよかった。極楽は、もうお断り」て。

そいばあっきゃ【それでおしまい】

(出典  三日月の民話  P55)

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