小城市芦刈町 辻 観次郎さん(明32生)

語り おはなし会三日月 中山博美さん
 ある宿屋に、お婆さんが子守としておったそうです。

そこに、一人の和尚さんが泊まりに来られたそうです。

その和尚さんは、お金をたくさん持っていたのでしょうか、

その宿屋の主人と隣の親父が、

「あの和尚は金ば持っとっばい【持っているようだ】。

いっちょ殺ぇて(こりぇえて)金ば盗ろうじゃっかぁ」

と話し合っていたそうです。

その話を、その宿で子守していたお婆さんが聞いて、

どうにかして和尚さんに教えないといけないと思って、

いろいろ考えて、和尚さんが泊っている部屋の外に来て、

子供をあやしながら、

「リンカジン【隣家人】とガカジン【我家人】、

ゴン【言】することをモン【聞】すれば、

ヨソウ【予想】をせずとゴン【言】しける。

ヒ【日】の字の下にジュウ【十】書いて、

タの字の側にトをたてて、

ヤマ【山】またヤマ【山】に寝ん寝しな」と唄ったそうです。

そのように唄って、和尚さんの泊まっている部屋の外を

行ったり来たりしていたそうです。

それで、和尚さんが、おかしいなと思い、

よく聞いておられて、どういうことか分かったそうです。

「隣の人と、この家の人が、話をしていることを聞いて、予想したことを伝えます。

早く、外に出て、逃げなさい」と

それで、こりゃぁ、ここには居られん、と思って、

夜中にすぐその宿から逃げて、殺されるところを助かったそうです。

それから、また、何年かして、その宿をたずねてきたら、

そのお婆さんも、まだそこにおられたそうです。

それで、

「お婆ちゃん、先般はどうもありがとうございました。

あなたも、いつまでもここで奉公をせんてちゃあ、

ひとつ、身を固めたらどうですか。

お礼に、お金ばあぐっから【さしあげるので】」と言って、

お金を渡されたそうです。

お婆ちゃんは、そのお金で、そこの宿場で餅屋を始めたのが、

「姥ヶ餅」と言う餅になったそうです。

(出典 芦刈の民話 P46原題:13 姥ヶ餅)

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