小城市小城町下右原 山崎 穣さん(昭3生)

 むかし、むかし、あるところに、

猿(さっ)どんと蟹(がい)どんが、いたそうです。

そうして、たまたま、秋の刈り入れが終わった頃に、

どちらからか、

「ちょっと、暇になったもんじゃあ、

餅どん搗(ち)いて食びゅうかぁ」て言うたら、

「そりゃぁ、良かろうばい」と言うことになったそうです。

そうして、猿どんが、

「蟹どん、蟹どん、お前、小豆ば拾ってこい。

俺(おい)は、餅米の穂ば拾うてくっけん」と言うので、

「そいない、そがんしゅうかい」ということになって、

それぞれ分かれて、拾いに行ったそうです。

そうして、しばらくして、拾って帰ってきてから、

今度は、餅を搗(つ)こうという話になったそうです。

そうしたら、猿どんが猿どんに、

「蟹どん、蟹どん、杵のなかけん、

隣(とない)さい行たて、杵ば借ってこんかん」と言うので、

蟹どんは、「うん」と言って、隣から杵を借りてきたそうです。

そうして、二人して餅を搗いたら、

小さい餅の沢山できたので、

「おーこら、りっぱなん物(もん)のできたじゃっか」と言うて、

並べたみてから、猿どんが、蟹どんに、

「今、借ってきた杵ば、もういっちょ【また】、隣さん返してこんかい」

と言うので、蟹どんは、また、

「うん」と言って、返しに行ったそうです

その留守に、この悪賢い猿が、餅を全部風呂敷に包んで、

裏の柿の木に、ゴソゴソゴソて登ったそうです。

そうしたら、蟹どんが帰ってきて、何もないので、

「ありゃぁ」と言うて、裏まで行ったところが、

猿どんが、餅を全部持って、柿の木の上で、食べよったそうです。

それで、蟹どんが、下から、

「俺(おい)にも、いっちょ、くーれんかい」と言ったら、

猿どんが、木の上から、

「登ってこい、登ってこい」て言ったので、

「そがん【そのように】言わじぃ、いっちょくれんかい」

と言うけれども、また、

「登ってこい、登ってこい」と言うだけ。

そうして、猿どんは猿どんに一向に餅をやろうとしないので、

蟹どんが

「猿どん、猿どん、うちの爺さんてぇろ婆さんてぇろはね、

『柿の木ぃ登って餅ば食ぶっ時ぁ、枯れ枝ぁかけて食ぶっぎぃ、

本当(ほん)にぃ美味か』て言いよらしたんたぁ」て言うたそうです。

そうしたら、猿は、真似が上手なので、

「おりょう、そがんないばい【そうなら】」と言って、

風呂敷に包んだ餅を枯れ枝にかけたところが、枝ごと落ちたそうです。

それで、蟹どんが慌てて、餅の入った風呂敷を、

穴の中に持って行ったそうです。

そうしたら、今度は、猿どんが柿の木から慌てて降りて来たけれども、

蟹どんは、穴の中に入って出てこないので、穴の上から、

「俺(おい)にも、いっちょ、くーれんかい」と言ったら、

「入ってこい」と言うだけ。

それで、猿どんは歯がゆいので、

「えーい、こん畜生」と言って、尻をまくって、

穴の中に、バリバリバリと、糞をしたそうです。

そうしたら、蟹どんが穴を登ってきて、

鋏(はさみ)で猿どんの尻をチョキって挟んだそうです。

それで、猿の尻は真っ赤になったそうです。

そいまっきゃ

(出典 小城の口承文芸 P21~22 原題:27 猿どん蟹どん)

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