小城市小城町寺浦 遠田恵美子さん(大5生)

 むかぁし、むかしねぇ、

「ろくよんどんさん」と言うお爺さんが

お婆さんと二人で住んでいたそうです。

ある年の暮れに、お婆さんが、

「本当(ほん)に、もう歳の瀬になったとけぇ、

お金もなーんもなしぃ、餅いっちょもつかじぃ、

ほんに【本当に】今年ぁ、年はどうしてとろう」と言われたそうです。

そうしたら、ろくよんどんさんか、

「俺(おい)に、本当(ほん)に良か考えのあっ。

婆さん、いっちょ、鼠(ねずみ)ば6、7匹獲って来(き)んさい。

そいぎんと【そうすると】、俺(おい)が、

いっちょ【ひとつ】、手ほどきばしてくるったぁ」

「ほんににゃあ【本当ですか】、そんない【それなら】、

鼠ば獲(と)って来(く)うだぁ」と言って、

婆さん、鼠を捕って来たそうです。

そうしたら、ろくよんどんさんが、

「こいで、いい。この鼠ば山さい持って行たて、

いっちょう、儲けてくっかぁ」と言って、

その鼠を持って山に行ったそうです。

そうして、山で、その鼠をかば焼きにしていたら、

かば焼きがおいしい匂いをあたりに振りまくものだから、

野狐(ヤコ)どんが、欲しくて、欲しくて、

木の葉ば被って、綺麗な娘に化けて、

ろくよんどんさんの所に出て来たそうです。7人も。

そうして、野狐(やこ)の化けた娘さん達が、

「ろくよんどんさん、ろくよんどんさん、

その鼠の蒲焼ば、いっちょう分けてくんさい」と言うので、

「くいちゃぁ【やっても】よかばってん、

そいぎぃ【そのかわりに】、お前達は、

俺(おい)が言うことを聞くか」と言ったら、

「うん、そりゃぁ、聞くくさんたぁ」と言うので、

「うん、そんなら、食わしゅうだい」と言って、

鼠の蒲焼を食わしてやったそうです。

そうして、食べ終わったので、

「おいの【俺の】言うことば聞く、て言うたけん、

つんのうでこい【ついてこい】」と言って、

7人の娘を町に連れていったそうです。

そうして、女郎屋に行って、

「ごめんくださーい、女郎屋の親父さん、

ちょっと良か娘ば7人も連れてきたと、どがんかい」と言うたら、

「うーん、こりゃぁ、本当(ほん)に良か娘ばい、

高(た)こー【高く】買おうだい」と言うので、

「そんない、買(こ)ーて【買って】くんさい」と言って、

ろくよんどんさんは、銭を貰うて、帰って行かれたそうです。

それから、女郎屋の親父さんが、

「今日は、初めてやもんじゃい、早(はよ)う【早く】寝んさい。

明日から、働りゃあてもらうけん」と言って、

野狐(ヤコ)の化けた娘達を2階に寝せたそうです。

そうしたら、翌日の朝になったのに、

少しもその娘さん達の起きて来(こ)んやったそうです。

それで、

「なし、起きてこんかぁ」と言って、女郎屋の親父さんが、

2階に上がってみたところ、布団の小さくなっていたそうです。

それで、

「なし、布団のベチャーってしとっとやろか。

あがん【あんなに】良か娘ば7人も寝せとっとけぇ」と言って、

布団を剥(は)いでみたところが、

野狐(ヤコ)がドンドン出て来て、逃げて行ったそうです。

それで、

「ありゃぁ、こりゃあ野狐(ヤコ)じゃったぁ。

こん畜生、あのろくよんどんめ、俺(おい)ば、きゃぁ騙したなぁ。

あがん良か娘ば連れて来たと思うとったばってん、

野狐(ヤコ)ば連れて来て。やかましゅう言うてくるっばい」と怒って、

ろくよんどんさんの家に行ったそうです。

そうしたら、ろくよんどんさんな、ちゃーんと、

女郎屋の親父が来ると思っていたので、布団敷いて寝ていたそうです。

そうして、女郎屋の親父が、外から、

「ろくよんどんな、おっかなぁ【おるだろうか】」と言ったら、

「はーい、おっばんたぁ、何じゃろかぁ」と

「お前(おみゃあ)は、すっこたぁすんのう【やることはやるな】。

野狐(ヤコ)ば7匹も連れて来て、良か娘て言うて、

俺(おい)ば、よう騙(だみ)ゃあたなぁ【うまく騙したな】」と言ったら、

「そうない【そうか】、俺(おい)は知らんばい。

俺(おい)は3年も前から、寝た坊してのう」と言い返したそうです。

「そいばってん、お前は、夕(ゆん)べ【昨日の夕方】、

連れて来たじゃなかかい」

「いんにゃあ【いいや】、俺(おい)じゃなか、

そりゃあ、俺(おい)じゃなか」と言うので、

「そんない、ろくよんどんも、

野狐(ヤコ)の化けとったとじゃなかったろうかにゃあ」と言ったら、

「そがんばい【そのとおり】、そりゃあ、野狐(ヤコ)の化けとっと。

俺(おりゃあ)、3年前から寝とんとこりぇ」と言ったので、

「こん畜生、野狐(ヤコ)のやつ、ろくよんどんにも化けて。

そいばってん【かといって】、野狐から騙されたない、

どがんしようもあんもんかぁ【どうしようもない】」と言って、

女郎屋の親父さんは、もう歯痒ゆくてたまらないけれども、

どうしようもないので、帰って行かれたそうです。

それから、今度は、野狐が怒って、

「こん畜生、ろくよんどんな、俺(おい)どんば【俺達を】

騙みゃあて、女郎屋に売っちょって、殺してくるっ」と言って、

ろくよんどんさんの家に行って、窓から家の中に石を込んだそうです。

そうしたら、ろくよんどんさんが、

「あー痛い、痛い、本当(ほん)に石も痛かばってん、

俺(おい)は死なんばーい。石投げたって死なんばーい。

そいでん、金投げらるっぎ死ぬばーい」と言ったら、

野狐達がそれを聞いて、

「あん畜生、ろくよんどんな、

『石投げたっちゃ死なん、金投ぐっぎ死ぬ』て言いよっけん、

金ば、いっちょう【ひとつ】持って来て投ぐっじゃっかぁ」と言って、

そうして、今度は、金を持って来て、投げること、投げること、

それこそ、家の中に、いっぱい投げ込むそうです。

それで、ろくよんどんさんが、

「あー痛い、痛い。そいばってん、まーだそれくらいじゃ足らん。

あー痛い、痛い。まーちかっと【少し】投げんば、

俺(おい)は死なんばい」と言っていたけれども、

しばらくして沢山、溜まったもんだから、

今度は死んだふりしたそうです。

そうしたら、野狐達は、

「ろくよんどんが、もう何(なん)も言わんごとなった。

死んだばん【死んだよ】。帰ろうじゃっかぁ」と言って、

野狐達は帰って行ったそうです。

それで、ろくよんどんさんな、一晩で大金持ちになったという話です。

 

 

(出典 小城の口承文芸 p89~91 原題:60 ろくよんどんさん)

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