有田町泉山 池田忠一さん(明34生)

 あのまあ、晩ですね、

あの、親父は、まあ、鰯(いわし)か何(なん)かで、

ちびりちびり、だいあみち言いますもんね。

晩酌のこと、だいあみ、ち。

そして、こう飲んでいるわけです、

嫁さんは、あの、子供に、

乳のみ子におっぱいを飲ませているわけですね。

その側に、小学校の三年生か四年生ぐりゃあの

子供がおって勉強しとるんですよ。

「父(とっ)ちゃん、この字は何ていう字ねぇ」て、聞くわけですよ。

親父はね、その字は知らんて言えるんでしょうが。

「ちょっと待っとれぇ。一杯飲うでから」

「父(とっ)ちゃん。この字は何ていう字ねぇ」

「ちょっと待っとれぇ。おろうつくな」

そいで、嬶が、ははあ、酒という字ですね。

酒という字を書いとるわけですね。

酒屋の酒。

ははあ、酒と親父は知らんと思うて、おっぱいを飲ませながら、

「父(おっ)たんのいちばん好いとったい。

父たんのいちばん好いとったい」言うわけです。

そいぎ子供はね、

「父(とっ)ちゃん。何ていう字ねぇ。こい、教えんしゃい」

「待っとれぇ」

ああ、俺がいちばん好いとっと、ち言いよっと。こりゃあ、

「父(おっ)たんのいちばん好いとっとたい」

「父(とっ)ちゃん、早(はよ)う教えんさい」

「その字は、ちょんべとおしたい」ち言う。

(出典 未発刊)

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