向島 平 三七十さん(大9生)

 夜泣きの地蔵ち言(ゆ)うのは、こりゃもう、

昔から私には小さい頃から、よう聞きよった話ですけども。

これはもう、むかしかしの大昔の、

お宮の近くい可愛いか女の子が、生まれんちゃったて。

それはもう、女の子が日晴れ頃からもう、

毎晩夜になると目を覚まして、

夜通し泣くようになってしもうたて。

そいで、お母さんがその、大変困って、こりゃあもう、

自分も泣きながら夜通し、夜明けまであやしながら、

何日も何日も続いたですねぇ。

で、お医者さんに診(み)てもろうても、

「もう、何も悪いところは一つもない」と言う。

そいで、困ったけれども、何日も何日も、

そのうちに続いているうちに、もうとうと痩せてしまって、

死んでしもうた。

家の方達は、もう全部もう、悲しんでお宮の裏にお地蔵さんを建てて。

そして、それをお祀りして、ねんごろに葬ったというような、

言うことでございます。

で、その後、またその近所に夜泣きする赤ちゃんがいた。

生まれたわけ。

そのお母さんが、今度(こんだ)あ、その子を抱っこして、

お地蔵さんにお菓子を供えて、お線香を焚(て)ぇて、

お詣りして残りのお菓子をお宮で遊んでいる子供さん達に

分け与えて食べさせたとない。

そいで、その夜から赤ちゃんが、今度あ眠るようになったと。

お母さんは大変、それ喜んで、このことを近所の人達に話して聞かせた。

その話が、だんだん広がって、お詣りすると、

もう必ずその晩から夜泣きが止まるようになったと言うのが、

夜泣きの地蔵さんの由来だそうですけれども、

その後(あと)にひとりだけどうしても、夜泣きが止まらない。

そいで、また困ったお母さんが、今度あ、お詣りをして、

今度はお地蔵さんの回りの泥を少し持って帰って、

赤ちゃん枕の下に置いて寝かせる。

そしたら、今度あもう、不思議なことにまた、すやすや眠るようになった。

そんな話が、どんどんどん近所隣広がって、もう誰言うとなく、

「夜泣きの地蔵様だ」と、いうような名前になってね、

今に伝わって、ああいうふうにきれいな祠ができて、

現在の人もお詣りをして、

お札を立てているというような伝説的なお話ですね。

こりゃ向島のいちばん有名な話になっとる。

そう言うことです。

(出典 三根の民話 P183)

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