三養基郡みやき町(旧三根町)東津 石井良一さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに、正直なお爺さんと、隣に欲張りのお婆さんが住んでいた。

ある日、お爺さんは大きな袋を持って山へ椎の実を拾いに行った。

椎の実は落ちていなかった。

お爺さんは、だんだん奥山へ椎の実を拾いに行った。

しかし、一つも椎の実を拾うことは出来なかった。

あたりは暗くなってしまい、お爺さんはどこか泊まるところを探し回っていた。

すると、お観音さまのお堂があった。

お爺さんは両手を合わせて、

「お観音さま、お観音さま。どうぞ、私を一晩泊めてください。

私は椎の実を拾いに来ましたが、いっちょんあえとらん【少しも落ちてない】。

どうぞ、私を一晩泊めてください」と頼んだ。

お観音さまは、

「泊まっとは、やすかこと。しかし、ここは、鬼が出て来る」と、

お爺さんに言われた。お爺さんは、

「良か、良か。鬼の出て来ても良か。どうぞ泊めてください」と、

お観音さまに言った。すると、お観音さまは、

「そんなら泊って良か。鬼が近くにやって来たら、

羽ばたきをして鶏の鳴き真似を二、三回せんば」と、お爺さんに教えられた。

お爺さんは、お観音さまのお堂に泊った。

そして、すぐに眠った。

真夜中ごろになってから、お観音さまが言われたとおり、

「ドンドンカンカン、ヒーララ」と、はしゃぎながら鬼どもが近づいて来た。

お爺さんは、その音に目が覚めた。

お爺さんは、お観音さまから教えてもらったとおり、

「パタパタ、コケコッコー。パタパタ、コケコッコー」と、鶏の鳴き真似をした。

鬼どもは、

「おりょう、もう夜の明けよっかの」と、口々に言った。

そして、持っていた物をそこに捨てて、あわてて逃げ去った。

翌朝、お観音さまはお爺さんに、

「鬼が捨てて行った物は、持って帰んさい」と言われた。

お爺さんは、それを拾い集め、大きな袋に入れて持ち帰った。

隣の欲張りのお婆さんは、お爺さんが袋から出しているところを

障子の穴からのぞいた。

お婆さんは、お爺さんから話を聞いた。

そして、夕方からその山へ行った。

お婆さんは、お観音さまのお堂へ着くと、

「お観音さま、お観音さま。どうぞ、私を一晩泊めてください」と、

お爺さんが言ったとおりに頼んだ。

すると、お観音さまは昨日と同じように、

「泊まっとは、やすかこと。しかし、ここは、鬼が出て来る」と、

お婆さんに言われた。お婆さんは、

「鬼は怖(えす)うなか【恐ろしくない】」と、お観音さまに言った。

すると、お観音さまは、

「そんなら泊って良か。鬼が近くにやって来たら、

羽ばたきをして鶏の鳴き真似を二、三回せんば」と、お婆さんに教えられた。

お婆さんは、お観音さまのお堂に泊った。

しかし、お婆さんはお爺さんのように純情でなかったので、なかなか眠れなかった。

お婆さんがウトウトしていると、遠くから、

「ドンドンカンカン、ヒーララ」と言う音が聞こえてきた。

お婆さんは、鬼が近づいてくるのが、のろく【遅く】感じられた。

お婆さんは、鬼が近くにやって来た時、

鶏の鳴き真似を教えられたとおりにした。

鬼どもは、

「おりょう、今夜もまた、早よう夜の明くっかのう」と、口々に言った。

そして、持っていた物をそこに捨てて、あわてて逃げ去ろうとする様子が、

お婆さんにはおかしくて、

「クスクス」と、笑ってしまった。

すると、鬼が、

「おりょう、こりゃ、人間の笑い声がしたぞ!人間のおっちゃあ」と言った。

鬼はお堂に近づくと、

「人間の臭いのしよっぞ」と言った。

そしてお堂に入って来て、

「お前やったか。騙しよったとは」と、

鬼どもは、お婆さんを散々な目に合わせたと。

お婆さんは、何も持たずに恐ろしがって家に戻って来たと。

そいばっきゃ【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話第二集 P33)

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