三養基郡みやき町(旧三根)東津 石井良一さん(年齢不詳)

 むかし、むかし。

あるところに馬鹿息子が住んでいた。

その息子が年頃になって、嫁をもらうことになったと。

馬鹿だということがばれないようにと、

家の人が幼ない子供に言い聞かせるようにして、

いろいろと教えこんでいた。

 ある日、馬鹿息子に、

「お嫁さんも決ったから、そこの家へあいさつに行ってこい。

嫁さんの家は改築もしてある。ところが、一つ悪い所がある。

そいは床柱の上に穴がほげとるから(開いているから)、

こりゃあ、きつかですねえ(残念ですねぇ)。

惜しいことしましたねえ。

あすこの穴にお守りさんば張っぎ、わからんですねえ」と言えよ」

と、家の人が教えこんだ。

馬鹿息子は、教えられたことを覚えてから、お嫁さんの家へ出かけた。

馬鹿息子はお嫁さんの家で、ご馳走を出されもてなされた。

ご馳走を頂いてから、馬鹿息子は家の中を見回していた。

そして、家の人から教えられたように、

「こりゃあ、きつかですねえ。惜しいことしましたねえ。

あすこの穴にお守りさんば張っぎ、わからんですねえ」

と、馬鹿息子は言った。

 お嫁さんの親たちは、少し馬鹿だと聞いていたけれども、

気が利いていると思った。

 ところで、お嫁さんのお父さんが、

「うちの馬もほんにきれいかけん、見てくれんかい」

と言った。馬鹿息子は馬小屋へ案内されて、その馬を見た。

馬を四方八方から見ている時、馬が尻尾をあげた。

その時、馬鹿息子は馬の尻の穴を見た。すると、

「お父さん、こけえ穴のほげとっけん、

お守りさんば張つぎ、わからんですねえ」

と、馬鹿息子は言った。

 それで、とうとう馬鹿息子だということが、ばれてしまったと。

(出典 佐賀の民話一集 P54)

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