神埼市脊振町東鹿路 木塚ニワさん(年齢不詳)

 むかし。

あるところの田舎に、やぼ医者が住んでいた。

ある日、やぼ医者は往診に行く途中、

苦しんでいる大蛇に出会い、それに手当てをしてやった。

ある晩のこと、やぼ医者のところへ娘さんが立ち寄った。

その娘は、

「あんたは一人暮らしのようだから、女中さんに使うてもらえんじゃろうか」

と、やぼ医者に言った。

やぼ医者は、その娘を家に雇うことにした。

やがて、やぼ医者は往診から家へ帰って来た。

すると、大蛇が子供を巻きつけて乳を飲ませていた。

やぼ医者はびっくりしてしまったが、知らんふりをしていた。

妻は自分の正体を見破られたことを悟った。

大蛇は再び人間の姿になって、

「私はあんたに助けられた大蛇。あんたが一人暮らしやったから、

恩返しにこうやって来たばってん【来たけれども】、正体を見られたからにゃ、

もうどうにもならんけん、沼へ戻りますけん。

もしこの子が泣く時は沼へ来て、私の名前を呼んでください。

そうすっと、出て来て乳ば飲ますっけん」

と言って、その家を立ち去った。

それからは、やぼ医者は子供が泣く時は沼へ行き、大蛇を呼び出しては乳を飲ませてもらった。

そういうふうにして、やぼ医者は子供を育てた。

そいばっかい【それでおしまい】。

(出典 佐賀の民話第二集 P43)

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