神埼町四丁目 米光輝次(明26生)

 むかし。

どっちんとじゃいが尻の結ばっとらじぃ、

片一方(かちいっぽう)とは、あぎゃんとして、拾いながらもう、

尻の結ばっとらんもんじゃいもう、なくなってなたあ。

そいでもう、片一方とがいっちょでん入っとろんもんじゃい、まあーだ拾おう。

まあーだ拾おうと思うて、拾いよったて。

そしてもう、早(はよ)う拾うたとは帰ってしもうたて。

片一方とは、瘤のできとったて。

そうして、お宮ちゅうか、あの、楠(くすのき)のほげたうつろたいなたあ、

あれ、その、雨の降ってないかして、帰ろうで思うとったばってん、

とうとう帰ぇきらじぃ、その楠のうつろに泊まらしたて。

そして、雨はようだばってんもう、晩じゃっけん帰らじぃ。

そいから後は、一時(いっとき)したいばその、賑(にぎ)やかなってきて、

こうこうして見よったところがその、鬼が、あの、笛・太鼓持ってその、踊いよったて。

そいぎぃ、こうしていちばん口(くち)ゃあ見よったばってんが、今度(こんだ)あ、

爺さんがまあ、よっぽど踊いば好きでしやったこっちゃい、もうわが楠の

洞穴(ほらあな)から出てきて、わがも、きゃあ混じってその、鬼の踊り、踊らしたて。

そうしてもう、いつまってん、だんだんしよったいば、夜の明けてきたもんじゃいもう、

鬼どんが帰っ時その、

「爺さん、爺さん。お前(まい)明日もまた来んか」ちて、言うた。

「はあ」て。

どがんしゅうもなか。

来んて、言うたこんなあ、こいまた鬼からどがんじゃいさるっこっちゃいわからんけん、

「また、来っ」て、こう、言うたらしか。

そいぎぃ、

「そんない、帰ろう」て、言うたところがその、一人(ひとい)の、

一匹の鬼が、

「あら、『来っ』て、言うたばってん、来んこっちやいわからんよう」て。

そいで、こうして見よったところが、ほんにこう、下っとんもんなたあ。

そいぎその、

「ありゃ、あがん爺さんなあ、頬(ほうべた)にその、宝物(たからもん)っば持っとっじゃっかあ。

あいばその、取っとけぇ。

そうすっぎその、明日(あしち)ゃあもまた、来るけん」ち、

言うてその、瘤ばひっちぎっ。

そいぎぃ、実はひっちぎらいとっばってん、その、治(ゆ)うなったらしかたい。

そうして、その人が右の方にできとったかなあ。

そして、家(うち)帰って、

「ああ、よかった。よかった」ち、喜うとったち。

そうしたところがまた、隣(とない)その、爺さんがおって、

あおのわいはこっちの方にできとらしたち。

「お前(まい)瘤はどがんしたかい」ち。

「『瘤はどがんしたかい』ち。あんたがあの、

椎の実拾(ひり)ゃあぎゃあ行たろうがあ。

そして、私(あたい)がとは、破れ袋やったろう。

あんたんとは良かったけんが、早う溜ったばってん、俺(おや)あ、

袋の破れとったけん溜らんやった。

そいけんが、結うで拾(ひり)ゃあおう、うち日の暮れた。

そうして、おまけにゃ雨まで降ってきて、がんして泊まっとった」て。

「そして、鬼は出てきて、ドンヂャンガンヂャン賑あわして

踊いよったけん、俺(おい)もその、一緒(ひとちぃ)踊った。

そうしたいばその、夜の明けてきて帰ぇがけなったぎぃ、

『また、明日も来てくいろう』て、言うたけんが。

そうしたいばその、ひっちぎらいた、鬼から。

そいがお陰で治(ゆ)うなったたい」

「そんないば俺も行たてその、いっちょこっちの瘤ば取られて来う」と、

ちょっと人真似たいなたあ。

そうして、行たて、まあ、椎の実は拾わしたこっちゃい

拾わっさんこっちゃい、もう、晩になったとば待ちかねとって、

ようして楠の洞穴にかごうどらしたらしか。

そうしたいば、やっぱい夜中になったいば、ドンヂャンガンヂャン言うて、あの、

笛・太鼓の音のして来たて。

そうして、踊いおんもんじゃいわがも出て行たて、一緒(ひとちぃ)踊らしたと。

そして、踊って、そいまでは良かったばってん、だんだん夜の明けてきた。

そうして、あの、早う帰ろうで、いつまっでん拾われんけん、そして、

鬼が帰ぇがけ、その、

「お前、この間預かった瘤は返す」ち言うて、ひっ付けてやったて。

そいぎぃ、今度あ、瘤ののうなったかと思うとったら、両方(じょうほう)できて、

こうこうして帰って来らしたて、言うお話たんたあ。

そいばっきゃあ【それでおしまい】。

[大成 一九四 瘤取爺 AT五〇三]

(出典 未発刊)

 

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