神埼町戸井土 田中ミヨさん(明42生)

 あの、豆ば炊きよいござったて。

そいぎぃ、昔、虚無僧さんちゅうて来よんさったろうが。

そいぎ、尺八ば吹いて、あの、立っといなったて。

もう、おいしかろうごと匂いのしよったけんその、

「炊きよいよっとば食わせろ」ちて、言いんさったて。

「いんにゃあ。こりゃあ、あなたにあぐんもんじゃなか。まあーだ煮えとらん」

ちて。そいぎぃ、

「何か」ち。

「味噌豆」ちて。

「ああ、味噌豆ちゅう物(もん)は、ほんに珍しい物、

そいいっちょ食わせてくいる」ちて、こう責めなったて。

そいばってん、食わせじなた、あの、

「まあ一時(いっとき)回ってから来んさい。そいぎぃ、煮えてから食わすっけん」

て、言うちゃああったて。

そいぎぃ、その後に、裏にあの、その子は出して、もう死んどったて。

埋けぇちゃったて。

そいぎぃ、竹の立派(じっぱ)い二本なた、あの、できたてっちやん。

そいぎぃ、そいばあの、そいぎぃ、また回って、

もう何年後じゃい回って来んさったぎ、その、立派か竹のあったて。

そいぎぃ、

「その竹ば相談させろ。あの、味噌豆の代わりに、もう、

こいばやってくいろ」ちて、言いなったけん、

その竹ばやって、ずうっと、あの、また、そいで吹いて歩(さる)きんさったて。

そいぎその、竹の中からその、この味増豆の由来(ゆわれ)の話ば

竹からしよったち。

そいぎぃ、お父さんの尺八の声聞いて、

家(うち)さい帰ぇたかしんさったところじゃったたい。

そいけん、味噌豆ちゅう物は、

「七里でん立ち返(かや)ってでん食わんば」ちゅうて、

婆さんたちの言いよんさった。

[大成二一七 継子と釜茹cf.七五一]類話

(出典 未発刊)

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