神埼町小渕 佐野ハツさん(明12生)

 お爺さんとお婆さんが、いてでしねぇ。

そして、お婆さんがその、椎の実拾いに行ったらしい。

そして、お爺さんと二人で行って、お爺さんなあ、

もういくら拾っても拾っても溜らないでしょう。

お婆さんとはいっぱいなって、

溜ったらしいですね。

そいぎぃ、お爺さんの袋は下がほげとったから、

ちょっとも溜らんとかで。

そして、お婆さんはいつぱい溜ったらしい。

そいぎぃ、お爺さんはもう、溜らんから自分の家(うち)に帰ったでしょう。

そいぎぃ、お婆さんはいっぱい拾って、そいで帰ったでしょうかねえ。

そして隣のお婆さんが、また拾いに行ったらしいです。

そして、ひとつも溜らんだったからその、騙されたとか言うですねぇ。

そしたら、お宮に泊まったら、もう、溜らんじゃったから、

椎の実が溜らんじゃったから、お宮に泊まったらしい。

そのお宮に。そして、

「ここに一晩泊めてください」ちて、

言うて言ったらしいです。そいぎぃ、

「泊まることはもう、易いことですけど、夜中になんとその、

鬼どものその、いっぱい来る」て。

「そこで、鬼どもが来たなら、もう、床の下にそうっと、もう黙っとんなさい」

て、お宮から言われたとかて。

そいぎぃ、黙っとたぎと、そしたら、夜の明け方になったら、その、

「コッケコー」て、言うたとかですね。

そうして、鬼どもがもう、何でも宝物いっぱい置いて、逃げてしまったとかて。

そいぎもう、その宝物ば、いっぱい持って帰ってもう、大喜びだったとかて。

そいぎぃ、また隣のお爺さん、お婆さんがそれを真似てですね、

椎の実拾いに行ってお宮に、そいしたらしいです。

そいぎその、また一晩泊まったらしいですね。

そうしたら、もうちょうどいっぱい来て、

ドンジャンドンジャンで、騒いでですね。

そうしたぎぃ、その人がまあ、余(あんま)い早くクシクスて。

笑ったとかて。そいぎぃ、

「ここには人間がおる。人間がおる」

ち言(ゅ)てですね、もう、鬼どもからその、突かれたい叩かれたいして、

血だらけぇなって帰ったて、言うことですね。

そいで、人真似したらだめだて言うて。

そいばあっきゃ【それでおしまい】。

[大成ニ一二 票拾いAT四八〇]類話

(出典 未発刊)

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