神埼町尾崎西分 山口秀次郎さん(明17生)

  二番お母(か)さんがその、あぎゃんと、

ずうっと、頼うで、お父さんが頼うで

ほんに、そのお父さんが頼うで行きよんさったぎぃ、

学校に行たてしよったところが、学校で

その、姉弟二人おったところがその、

「今日(きゅう)はその、お飯は食うごとなか」て、

こぎゃん言うちゅうもんのう。

「弁当ば食(たび)ゅうごとなか」ち。

そいぎぃ、先生が、

「だあー 持ってきてんさい」ちて、言うて、見たちゅうもん。

そしたい、何かこう、キラキラしよっごたっとの

入っとろうごたちゅうもん。そいぎぃ、

「こりゃあ、食べんがよか」ち、言うて、食べさせんじゃったて。

二人ながら食べさせじなあ。

そして、その、用務員さんとこれ犬のおったて。

そいぎぃ、犬のおったもんじゃい、

犬ば連れてきてそのご飯ば食べさせてみたて。

そうしたい、食べたば大方もう食べてしもうたと

思う時分になったいば、ゲェ、ゲェ、ゲェで、

むやみ騒ぐてっちゃん。

ありゃあ、こりゃあやっぱい毒の入っといたばい、と思うたて。

そいぎぃ、ころいしたけんのう。

そいぎぃ、こりゃあ、このよに悪かことすんない一人は、

帰されんと思うてなあ。

そいぎぃ、先生がもう、こっそいと行たてもう、

夕方(ゆうるし)行たて、その、かごうどったもようたい。

そうしたところが、息子どんが学校から帰ってきてから、

「お前(まい)達ゃあ、飯は食うたかあ。弁当は食べたかい」ちて。

「飯ゃあ先生の、『今日は食(たぶ)っことなん』ちて、言いなったもんじゃい」

「なし、『食っことなん』ち」

「食べんじゃった」て。

「食(たび)ゅうごとなかった」

「ほんに食ゅうこんじゃったか」て。

「ほんなこと食べっこんじやった」て、こう言うとったち。

そいぎぃ、こりゃあ、ほんに食べんじゃったか、と思うておったち。

そうしたところが、大釜(ううがま)に入れて、そしてその、

ほんに湯ば炊きよっちいうもん。そいぎぃ、

「おかあさんその、そい何ば炊きよっかい」ちて。

「うぅん。何ゃあその、味噌豆ば煮ろうでて」

ちて、こう言うたちゅうもん。

「味噌豆煮よっ」て。

「そん時ゃあ、『味噌豆は七里も立ち返って食うもん』

ち言(ゅ)うけんが、いっちょ食わせんかい」ち、こう言うたちゅう。

「いんにゃ、そりゃあでけん」ち、言うたじゃん。そいぎぃ、

「『でけん』ち言わんちゃ、いっちょ食わせござい。誰(だい)でん、

『七里も立ち返って食うもん』ち言うけんが食わせござい」て、言うて。

そうしたところが、食わせんじゃったて。

ただ湯沸かしよったけんのう。

そうしたぎにゃあ、こりゃあ、食わせんじゃったと思うて。

そいぎぃ、先生は、

「今日は、もう帰っ」ちゅうて、言うて、

家の周囲(ぐるりぃ)、どういうことすっじゃろうかと思うて、

今夜(こんにゃ)あ、こら危なかと思うて、

番しといなったもようじゃんなあ、初めから来て。

ところがその、今度(こんだ)あ、その子供は寝てしもうたもんじゃい、

抱いてきてその、蓋(ふた)ば開けて、ヒャアーっと、入れたもようたい。

そん時、アラッと思うて、先生がおろたえて行たもようたいのう。

そうしたところが、おや、見参(みいざん)

したあと思うて、したいばのう、そうしたいば、向こうから、

「先生」ち言(ゅ)うて、声出して、こりゃあ良かったと思うてない、

お碑やさんば結(くび)ってその、あがんとの中(なき)ゃあ入れとったて。

子供と思うとったぎぃ、やっぱい、

そのお碑やさんが、身代わり立ててくいなっとったてなあ。

[大成二〇七 お銀小銀 AT三二七cf.AT七〇九)類話

(出典 未発刊)

標準語 TOPへ