神埼町横武 馬場崎タツさん(明12生)
お母さんとあの、夫婦おってなたぁ。
お母さんが、ほんに難しかったて。
袴(はかま)ばなたぁ、三十三の綾の織りてなたぁ。
袴(はかま)ば捨てで入れて、そいぎ、ちょっとただ、あぎゃんと嫁さんの
知っとくさんたあ。そいばってんが、ほんに、たったひとちて、
たったちかっとんなのって忘れさす。
そいが、娘嬢さんのおらすて、何でん知らさんけん、
その嫁くさんばっかい知っとらすけん憎しゃ、そがんすっって。
憎しゃばんたぁ。
そいぎなた、たった一つのあやのあっぎ、
はったと忘れたと、ほんに泣かすくさんたぁ。
そいで、家(うち)まで行こうにゃ遠(とう)かもんじゃいなた、
そいぎゃんするはずはなかもんじゃ、骨に頭ばすりつけて、
姑お母さんの願わすばってんなた、その、教えさっさん。
そして、神さんに何やかや金の灯籠てなんてんあげて、
願かけてそがんすんもんじゃいなた。
よそらしかもんあんなた。
そして忘れさす。そいぎあの、
「そぎゃな嫁御、あゃ、なぜの袴いっちょうでおいえんごた
嫁御はここにおらん」て言わすたんたぁ。
そいぎ、亭主(おていす)さんのいっちょは姑のまえまえ、
いっちょは我のためって暇ば出さんすたんぁ。
(出典 未発刊)