神崎町利田 納富ミヨさん(明22生)

 昔ね、むかしねぇ、

ほんにお金持ちのおんさったて。

そしたらその、お金持ちん所にね、あぎゃんと、

「物ごと売い、物ごと売い」ちて、来よってっちゃんね。

そいぎ、物ごと売いちて来よっき、

「物ごとち言うぎ、何じゃろか」ちて、言うて言いよんさったぎ、

「そいば一(いっ)ちょ買(こ)うてみゅうじゃっかぁ」

ちて、言いんさったて。そしたら、

「物ごと売い(う)さん」ちて、おろうでね、呼んで聞きんさったぎ、

その物ごと売いさんのね、

「物ごとじいけん、口で言うとばい」ちて、言うて聞かせんさったて。そいぎ、

「どぎん言わんばねぇ」ちて、言いんさったぎ、

「取ったか見たか、かたげたか。そう言うたら、かごうだか、ちて、言わんば」

ちて、言いんさったて。

そいぎ、そいば覚えて、

「取ったか、見たか、かたげたか。そう言うたら、かごうだか」

ちて、言いよったて。

そいぎね、夜になってからね、泥棒が入って来てね、

そこの、金庫(こう)ば取ってねぇ。

そろーっと取って、もう、ようよう、持って行こうでて、かたげとったて。

そしたら、寝言、言うてね、ずっと言いよんさっ。

「忘れんごと言いよらんば」ちて、言うたぎぃ、寝言、言うてね、

「取ったか見たか、かたげたか」ちて、寝言、言いなったて。

そしたらね、その泥棒が、じいーっと屈(か)ごぉだて、

かたげながら。そいぎ、

「そう言うたら、屈ごうたか」ちて、また言うたて。

そいぎ、その泥棒が、いよいよもう、見当てられたばいと思うてね、

もう、金庫(こう)は捨てて帰ったちて。

(出典 未発刊)

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