神埼市千代田町千歳地区出来島 西村ワサさん(明21生)

  むかし、本当に親孝行の息子がお母さんと住んでいたそうです。

ところが、お母さんが年を取って目が見えなくなったそうです。

それで、その息子がお医者さんに連れて行くけど、

どこのお医者さんに連れて行っても治すことができないそうです。

それで、毎日、

「お母さんの目ばあくごとすっには【目を治すには】、

どげなっとんしたこんな良かろうか」と言っていたそうです。

ある時、お遍路さんが来られたので、そのお遍路さんに、

「ほんに【本当に】、お遍路さん。

あんた、色んな所ば見てさるくお方じゃっけん、

お母さんが、こがんして目の見えなくなったのを治す方法を

知っとる人のおっござらんじゃろかぁ」と聞いたところ、

「そりゃぁ、知っとる」と言われたので、

「教えてもらえんですか」と言ったら、

「イカンガ島のコンガシュクちゅうとこりぇ【所へ】、

よか易者さんがおいなっ。そこさい行くぎにゃぁ、分かる」と、

このように言われました。

それで、

「それじゃぁ、そこさい、いっちょ行ってみらんば」と言って行かれたそうです。

そうしたところが、幾晩泊まられたか分からないけど、

ズーッと、イカンガ島のコンガシュクを訊ねて行っていたが、どこの宿でも、

「お前さん、イカンガ島のコンガシュクちゅうところは、行く所じゃなか。

行って帰ってきたもん【者】な、なか」て、そして、

「お前は七人目。お前も帰ってこられん」と言って、

行くのを止めようとされたそうです。

それでも、その息子は、お母さんのことだから、どうしても行かないと思って、

宿屋の主人が止めようとするのを振り切って行こうとしたら、ある宿屋の主人が、

「どうしても行くない、言付けのあっ」と言われました。

それで、

「なん【何】の言付けかい」と聞いたら、

「うち【自分の家】の娘が十二まで、もの言いよったばってんが、

そいから先ぁもの言わんごといちなったぁ。

そいけん、そいがどういう訳か聞いてきてくいござい【聞いてきてください】」

と言われたので、それも、易者さんに聞いてくることになったそうです。

そうして、また、先に行きよって、別の宿に泊まられて、そこの主人も、

「お前が七人目。とても戻っちゃきいえんけんが、行きござんな」と言って、

止められたそうです。

それでも、

「いんにゃぁ、どうでんこうでん、親のことじゃっけん、行たてくっ」と言って、

行こうとしたら、

「そいないば【それなら】、いっちょ、

言付けば受けのうて【頼み事を引き受けて】行たてくいろう」

と言われたそうです。

それで、それも

「なん【何】の言付けかい」と聞いたら、

「ここに、ミカンの木ば千本、植えとっばってん、

その中に三本、花は枝の折るっごと咲くばってん、

実のならん木がある。どういういわれて、その実のならんこっちゃい」

と言われたので、それも聞いてくることになったそうです。

そうして、また、先に行きよったところが、大きな川があったそうです。

橋のない川が。

それで、

この川は、どのようにして渡ったら良かろうかと思っていたら、

急に、空が真っ黒になって、恐ろしい風がゴーゴー吹いてきたそうです。

そうして、川の水も増えて流れも恐ろしいように早くなったそうです。

それで、もう怖くなって、川の側に腰かけて、

念仏ばかり唱えていたら、その息子の真横に大きい大蛇が来たそうです。

それで、

「こげなふとか【このような大きい】大蛇なら、

こりゃぁ、こいから呑まるっに違いないか」と言って、

また、一心不乱に念仏を唱えていたら、大蛇が息子の鼻先まで来て、

「逃ぐうでしたっちゃ逃がしゃぁせんぞ。

俺(おりゃあ)、お前に頼むことのあったけん来た。

俺(おい】が頼むことば、いっちょ【ひとつ】聞いてくれんか。」と言うので、

「そやもう【それはもう】、私ができることなら、どげなことでんすっ」

と言ったら、

「お前は、イカンガ島のコンガシュクところの易者さんのとこに行きよっかぁ」

と聞くので、

「はい」と言ったら、

「イカンガ島はこの川の先じゃ。

そこにコンガシュクていう所があって、その易者さんに、

俺が、このかた千年【いままで千年】も天に登ろうとすっばんてん

登られんのはどうしたわけか、聞いてきてくいろ。

お前が、請け負うてくるっぎぃ【頼まれてくれると】、

この背中に乗せて、この川ば渡してやっ」と言われたそうです。

それで、聞いてくると約束したら、大蛇は、

「そいない、俺(おい)の背中に乗れ。あぶのうなかごと【危なくないように】、

この川ば渡してくるっ」と言って、背中に乗せて、渡してやったそうです。

向う岸に着いたら、

「易者さんの所は、いかんが島の何件目じゃっけん」と言って、

易者さんの家まで教えてくれたそうです。

それで、はぁ、これは、助かった、と思って、

大蛇に言われたとおりに行ったら、易者さんの家に着いたそうです。

それで、一番先に、お母さんの目のことを聞きたかったけれど、

途中で言付けを預かっていたので、やっぱり、順番に聞いていかないと、

自分の立場はないと思って、一番最初に、宿屋の娘のことを聞いたら、

「その娘がものを言わんたぁ、お前がここから帰って行くぎんたぁ、ものを言う」

と言われたそうです。

次に、二番目に、ミカンの木のことを聞いたそうです。

「みかんの木が千本あって、

そのうち三本な、花は咲くばってん、実は成らんそうです。どういうわけじゃろうか」

と聞いたら、

「そいは、三本の木の下に金の瓶のいかっとっ【埋めてある】」と言われたそうです。

そいから、三番目に、

「恐ろしか大蛇が、川ば渡てゃぁてくれた時、

『どうしてこのかた千年も天に昇られんやろか』聞いてきてくれと頼まれた」と言ったら、

「確か、大蛇の目に水晶の玉の入っとっ。

その水晶の玉を取ってやれば、天に昇らるっ。それはお前がとってやれ」

と言われたそうです。

それから、最後に、

「うちのおかさん【自分の家のお母さん】が、

目のみえんごとなっとっのはどうしたやろうか」と聞かれたら、

「ここの易は、三回より上は知ることがでけん」と言われて、

何度頼んでも聞いてくれませんでした。

それで、

「ほんに【本当に】困ったなぁ。

お母さんのために来たとこりぇ、ほんに【本当に】困った」と言いながら、

トボトボ帰ってきて、まず、大蛇のいる川の所に来て、

水晶の玉を大蛇の目から取ってやったところが、

天に上ることができるようになったそうです。

そうしたら、

「お前がとってくれたから、天に昇っことがでくっごとなったばってん、

目がみえんごとなって、昼じゃい夜じゃい分からんごとなったけん、

有明の鐘ば、打ってくいろ。そうすっと、今は有明【明け方】ばい、

今はいりあい【暮れ方】ばい、て分かって安心すっ」と言って、

そうして、片方の目から取った水晶の玉を、

その息子にお土産としてやって、ゴウゴウと音をたてて、

天に巻き上がって昇っていったそうです。

それでも、やっぱり、お母さんに、どのように申し訳したら良いかと

思いながら帰っていて、ミカンの木のことを頼まれた宿屋の主人に言いました。

「三本の木の下に金の壺のいかっとっ【埋めてある】」と言ったら、

その金の瓶を全部堀りだして、

「お前にくるっ」と言って、金の瓶を馬に乗せてやったそうです。

そうして、金の瓶を載せた馬を連れて、

次に、しゃべらなくなった娘のいる宿屋に着いたら、

その娘が、

「はぁ、最前のお客さんの帰ってきなったたぁ」と言われたそうです。

そうしたら、その宿の主人は感謝して、その娘を孝行息子の嫁にされたそうです。

それでも、その孝行息子は、

お母さん一人、聞くことができなかったので、

どう言ってお母さんに理由を言おうか、

せっかく、イカンダ島のコンガシュクまで行ったとこりぇぇ、と思って、

帰ってきて、お母さんに、

「こげな水晶玉ば、もろうてきた」と言って、その水晶の玉を見せたら、

たちまちお母さんの目が開いたそうです。

そうして、その息子は、大蛇に言われたように、

日の出と日の入りが分かるように鐘をつくようにしたそうです。

一生懸命親孝行しとったから、神様がいいことを与えてくれたという話を、

お爺さんからよく聞いていましたよ。 

(出典 千代田の民話 P161

佐賀弁版 TOPへ