神埼市千代田町千歳大島 大坪トクさん(明32生)

  むかぁし、竜宮の乙姫さんが病気になって、

お医者さんに診てもらったら、

お猿の生き胆が病気に一番きくと言われたそうです。

それで、地上に、お猿の生き胆を、

誰にとりに行かせようかと言うことになって、

話し合いをした末に、

これは、くらげが良かろうと言うことになったそうです。

それで、くらげが乙姫さんの命令を受けて、

海の底の竜宮城から陸上の近くまで来て、

お猿さんがいそうな所を探していたら、

ある所で、ちょうど、猿さんが木の上にいて柿を食べていたそうです。

それで、お猿さんに、

「お猿さん、良い所にお連れしようと思ってまいりました。

竜宮に行ったことはありますか」と言ったそうです。

そうしたら、お猿さんは、

「私は、竜宮は一遍も行ったことがありません。

行きたいと思っておりました」と言うので、

「丁度いいので、これから参りましょう。

竜宮という所は大変いい所です。

ご馳走はあるし、ひらめの踊りなんかもあったりして、実にえぇ所です」

と言ったら、

「それなら、連れていってもらいましょう。

だけど、どがんして行くんですか。

陸にばっかい住んでいるので、海の底にはどがんして行くかわからん」

と言うので、

「私の背中に乗ったら、海の中も行くことができます」と言って、

くらげは、お猿さんを自分の背中に乗せて竜宮に連れて行っていたら、途中で、

「お猿さん、あなた、肝を持っていますか」と聞いたそうです。

そうしたら、

「肝はもっているよ」と言うので、

「そいぎぃ【そうしたら】、安心しました。

実は、その肝が欲しかったのです。

乙姫さんの病気を治すには、どうしてもその肝が欲しかったのです」

と、つい言ったそうです。

そうしたら、お猿さんが、びっくりして、

「ああ、肝が必要ですか。そりゃぁ、惜しいことをしました」と言うので、

「どうしてですか」と言ったら、

「肝をすっかり、山に忘れてきました。

ちょっと、引っ返して下さい。

肝をとってくるから」と言ったそうです。

それで、くらげ、陸まで引き返して岸に着いたら、お猿さんが、

「肝をやってたまるかい。

肝がなければ死んでしまうのだから、

肝なんかやるなんてできない。やなこった【嫌なこと】」

と言って、山の方に逃げてしまったそうです。

それで、くらげはがっかりして、竜宮に帰って、

そのことを報告したところ、竜王さんがとても怒って、

「お前は、使いにいって、

せっかく猿を連れてきよっとこりぇ、そんなことを言うとは」

と言って、それまでクラゲに骨があったのを全部抜いてしまったそうです。

そのため、クラゲは今でも骨がなくてグラグラしているそうです。 

(出典 千代田の民話 P136

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